こうした法定後見の危険性をBさんはよく知っていた。Bさんが語る。

「法定後見は絶対に嫌なので、父と話し合って任意後見契約を公正証書にすることになりました。父と2人で公証役場に行き、公証人に任意後見契約の公正証書を作ってもらったのですが、驚いたことに、できあがった公正証書には、私たちの意志に反するとんでもない特約事項が盛り込まれていたのです」

 特約には、本人の財産を処分する際には、必ず「任意後見監督人の書面による同意が必要」と記されていた。要は、父親から財産管理を一任されたにもかかわらず、Bさんは任意後見監督人の弁護士におうかがいを立てて許可を得られない限り、財産に手をつけられなくされていたのだ。

「私は長年、この特約事項を必ずつけてきた」

 Bさんはこう話す。

「今後、父親が認知症になって在宅介護が不可能になるときがあるとします。老人ホームに入るにはまとまったお金が必要なので、その費用を工面するため、場合によってはいま住んでいる自宅を売却しなければならなくなるかもしれません。

 ところがこの特約を認めたら、自宅の売却はおろか、あらゆることに弁護士が介入し、父と私が望むことが何もできなくなる恐れが多分にあります。これでは法定後見と何も変わりません。せっかく任意後見を結ぶ意味がまったくないので、公証人に“この特約を外してほしい”と繰り返しお願いしたのですが、公証人は“任意後見監督人の権限を制限することになるので削除は絶対にしない”と頑として削除を拒否したのです」

 公証人は「私は、長年、任意後見の公正証書を作って来たが、他の任意後見契約では必ずこの特約をつけてきた」と聞く耳を持たなかったという。