首都圏に住むBさんは、父親が認知症になったときに備え、父親との間で任意後見契約を交わすことになった。

 任意後見は成年後見制度の一つで、認知症高齢者や障害者を守るための制度だ。本人に判断力があるうちに、本人が「認知症で判断力がなくなったときに、私の財産の管理や医療・介護の契約などをお願いする」と、信頼できる親族や友人などに依頼。本人と親族らは公証人立会いの下で任意後見契約を結び、それを公正証書にする。

 親族や友人らは、本人の判断能力が十分でなくなったと判断すると、家庭裁判所に「任意後見契約を発効させたい」と申し立て、家裁が申し立てを正当と判断し、任意後見監督人(親族や友人らを監督する役回りの弁護士)を選任した時点で任意後見契約は発効する。

 本人の意思が反映されることから任意後見は成年後見制度の基本形とされるが、成年後見制度には、もう一つ法定後見という制度がある。こちらは本人が認知症で判断能力が不十分になってから、家裁が法定後見人を選任する仕組み。判断能力が衰えてから国家(家裁)が法定後見人を選任することで分かる通り、本人意思は軽視もしくは無視される傾向が強い。

公証人が勝手につけた「任意後見監督人」の特約事項

 法定後見に批判的な司法書士が語る。

「法定後見人の7割は弁護士、司法書士らの士業が独占し、親族が法定後見人に選ばれることは滅多にありません。法定後見は、私的自治を原則とする任意後見とは異なり、国家機関である家裁が法曹界仲間の弁護士、司法書士に仕事を丸投げし、国家(家裁)の代わりに弁護士、司法書士が認知症高齢者を“管理”する仕組みといった方が正しい。

 法定後見人に選任された弁護士らは、本人の通帳や印鑑を弁護士事務所の金庫に入れて管理する程度のことしかしないのに、本人の年金などから年間24万円から72万円程度の報酬を取っていきます。報酬は本人の銀行口座の残高によって増減します。このため弁護士後見人の多くは、報酬を多くもらえるよう、できるだけ本人の預金残高を減らさないようにします。その結果、本人が“家の修理をしてほしい”とか“家族と旅行に行きたい”と頼んでも法定後見人が出費を認めないことが多く、本人の人生を豊かにするという本来の制度の目的からかけ離れた運用がまかり通っています」