納得できないBさんは、別の公証人や識者らに意見を求め、任意後見監督人の同意については法律上の定めがないことを確認。改めて公証人に削除を求めたが拒否された。

“被害者”に対して法務局から「懲戒請求取り下げ」の働きかけ

 堪忍袋の緒が切れたBさんは昨年8月、公証人を所管する法務大臣と、公証人が所属する法務局の局長に対し、公証人を懲戒処分にするよう申し立てた。

 すると、ようやく公証人は自らの誤った解釈に気づいたらしく、問題の特約を削除すると言い出した。また法務局も「公証人は考え方を改めた。懲戒請求は取り下げたらどうか」とBさんに打診してきたが、Bさんは断った。その理由をBさんはこう話す。

「私は後見制度の問題点についての知識があったため“公証人が言っていることはおかしい”と気づきましたが、何も知らない人は“法律の専門家である公証人が言うのだから正しいに違いない”と考え、特約を承諾させられたはずです。現に公証人は“長年、この特約をつけてきた”と居直っていましたから、すでに被害者は大勢いると思います。それを考えると絶対に許せませんでした」

 結局、法務局は公証人を懲戒処分したが、Bさんに懲戒請求取り下げを持ちかけた経緯からすると、「臭いものに蓋」的発想が法務省と法務局にあったのは明らかだ。

 法務省、法務局、家裁、日弁連などは、任意後見制度の私的自治の原則を一から勉強し直した方が良いだろう。