「クリミア侵攻の前兆とみなされた場合、ロシアが核威嚇に訴える危険が高まる」
米欧が黒海の商船を軍事的に護衛することを約束するには、ロシア軍の艦船や潜水艦を攻撃すると脅さなければならない。ロシア軍がNATOとの直接対決を避けて後退すると、さらに米欧の軍事介入を招くことになる。ロシア軍の行動範囲は次第に狭められていく。こうした展開を避けるため、ロシア軍が船舶やレーダー施設を標的にすることも考えられるという。
チャルマーズ氏によれば、ウクライナ軍は今後、いったんはロシア軍の手に落ちたヘルソンやマリウポリなど領土の大半を取り返すとの見方が有力になっている。しかし、1954年にロシアからウクライナに帰属替えになるまでロシアの一部だったクリミア半島を失うことはロシアの領土保全に対する根本的な挑戦とみなされる恐れが高い。
「ウクライナがヘルソンなどクリミアとの境界に近い地域を奪還すれば、黒海艦隊の拠点セバストポリ海軍基地の使用を妨害する動機がウクライナ側に生まれる。こうした攻撃がエスカレートし、クリミアへの本格侵攻の前兆とみなされた場合、ロシアが核による威嚇に訴える危険が高まるだろう。このシナリオは今後数カ月の間に最も懸念される1つだ」と語る。
ロシア軍はウクライナの港の商舶を事実上封鎖してきたが、ロシア側の説明では、オデーサ、ヘルソン、ミコライフなど黒海の6港に16カ国70隻の外国船が入港、マリウポリも機雷を除去し使えるようにしたという。一部制裁解除を条件に、食糧を運ぶ外国貨物船が黒海の港から出港できるよう安全な人道的回廊を開くことを約束した(インタファクス通信など)。
黒海に面するルーマニアの港はウクライナの輸出拠点となることを目指している。軍艦派遣はロシアに譲歩を迫る揺さぶりに過ぎないのか。西側が穀物輸送の人道的回廊のため黒海に軍艦や機雷掃海部隊を派遣することになれば、ウクライナの緊張は一段とエスカレートする。世界に冠たる機雷掃海技術を有する日本にも備えが必要だ。