世界自然遺産の知床半島(出所:写真AC)

(筆坂 秀世:元参議院議員、政治評論家)

「KAZU Ⅰ」の無謀な出航

 北海道知床半島沖での観光船「KAZU Ⅰ(カズワン)」の沈没には衝撃を受けた。観光客24人、船長と甲板員各1人の26人もの人々が遭難した。驚愕したのは、この運航会社「知床遊覧船」の無責任さである。

 事故発生から5日たって、ようやく桂田精一社長が記者会見を開いた。その第一声が、「みなさん、このたびはお騒がせして大変申しわけございませんでした」という言葉だった。これでは、多くの人命を奪ってしまったことへのお詫びにはならない。

 問題は、波浪注意報が出され、天候悪化が予想される中でなぜ出航したかということだ。桂田社長は、豊田徳幸船長から「『午後の天気が荒れる可能性があるが、10時からのクルーズは出航可能』と報告があり、ウトロでは風と波も強くなかったので、海が荒れるようであれば引き返すという『条件付き』で出航を決定しました」と釈明した。

 だが多くの専門家は、船の場合「条件付き運航」などあり得ないと指摘している。水難学会会長の斉藤秀俊・長岡技術科学大学大学院教授は、条件付き運航など「あり得ない。天候が急変しそうという認識があれば、直ちに中止すべきだった」(5月2日付「朝日新聞」)と語っている。

 外洋で海が荒れた場合、引き返すことすら困難になるであろうことは素人でも分かる。だからこそ、他の観光船や漁船は出航しなかった。天候悪化が予想される中での出航は、あまりにも無謀だったのだ。