シリアでは、プリゴジン氏に油田の権益が割り当てられた。マリでは、ワグネルが毎月1000万ドルの報酬をポケットに入れていると報じられる。

 プリゴジン氏は一部のロシア政府高官、例えばセルゲイ・ショイグ国防相などと対立したこともあったようだ。

 2018年のこと。シリア東部の都市デリゾールの近くにあったクルド人の前線基地をロシアの傭兵約200人が攻撃した際、この基地を支援していた米軍が傭兵たちを空から攻撃して殺害した。

 ロシアの正規軍はこの時、殺戮(さつりく)を回避する手立てをほとんど講じなかったとされる。

 だが、ワグネルはそうした挫折からも立ち直ったようだ。ひょっとしたら、それはプリゴジン氏とクレムリンがつながっているせいかもしれない。

異色の経歴を持つ創設者

 プリゴジン氏は若い頃にソビエト連邦の刑務所で刑期を務め、釈放されてからサンクトペテルブルクでホットドッグ・スタンドを営み始めた。

 小さな店でのスタートだったが、やがてレストラン経営に手を広げ、この都市のエリート層を魅了するようになった。

 プーチン氏は2000年に大統領に就任すると、プリゴジン氏の店に大物を連れてくるようになった。

 例えば米国のジョージ・W・ブッシュ大統領は、市内を流れるネヴァ川に浮かぶプリゴジン氏のレストラン「ニュー・アイランド」で鴨のレバーパテ、黒キャビア、モリーユ茸のソースとステーキの夕食を取ったとされる。

 すると程なく、ロシア軍に食事を提供するおいしい契約が回ってくるようになり、それ以上に重大な任務も託されるようになった。

 後にワグネルになる傭兵集団や、インターネット・トロール会社インターネット・リサーチ・エージェンシー(IRA)がそれに当たる。

 後者のIRAは、偽情報をインターネットで拡散させて2016年の米国大統領選挙に介入した疑いでロバート・モラー特別検察官に起訴された会社だ。