40年ぶりの飲食バイトで目にしたもの
宣言が明けた直後の夏、Cさんの会社は社員に対して堂々と「副業解禁」を宣言した。Cさんは大学卒業以来、勤続37年になるが、その間に副業の経験は一度もない。
「私は独身ですから、給料が下がってもなんとか暮らしていくことはできます。でも、先のことを考えると、どうにかしなくてはと思いました」
Cさんはその夏から、すぐに副業を始めた。選んだのは、学生時代に経験のある飲食店でのアルバイトだった。
「久しぶりに会社以外の仕事に就きましたが、一度経験があるとすんなり入れるものです。普段から料理や洗い物も自分でやっていますから、あまりブランクを感じませんでしたね」
Cさんが飲食店のアルバイトに入るのは、週末の土曜日のみ。最近の飲食店では、「スポット」と呼ばれる1日のみの単発アルバイトでも入ることができる。スマホの求人アプリで「本日のキッチン」というような募集が出ると、そこに応募するのだそうだ。Cさんは特定の店ではなく、毎週その都度いろんな店に応募し、1日だけの「助っ人」として働くことにした。
「同じ店で働き続けると、人間関係が面倒くさいんです。いろんなお店に入ったほうが、ストレスがなくていい」
Cさんのように単発で働くスタッフに任されるのは、食べ終えた食器の片付けと皿洗いとのみという場合が多い。注文を取る仕事は1日でメニューが覚えられないし、1日だけのスタッフにレジ対応などお金の管理を任せることはない。それでも土曜日の夜は、働き手が少ないうえに、店にとっては一番忙しい日でもあるから、仕事に困ることはほとんどないという。
しかし、コロナ禍で飲食店も打撃を受けている。そんなに飲食店の求人があるのだろうか。
「コロナでまん延防止になっても、支援金を受取らずに店を開ける居酒屋はたくさんありました。しかも、他のお店が閉まっているから、お客さんも開いている居酒屋に集中しやすい」
久しぶりの飲食店の仕事、Cさんが若き日にアルバイトをしていた40年前と比べると、少なからず変化も見られた。
「注文を取るのに、昔は暗記が普通でした。今は小さな店でも電子端末で注文を取ることが多いですよね。それから、支払方法もカードやキャッシュレスなど多様になりました。あれは私には対応が難しい(笑)」
そして一番大きな変化を感じたのは、働き手だという。
「昔は居酒屋のキッチンと言えば、学生がメインのバイトでした。特に、私のような中高年の男性が居酒屋のキッチンで働く光景は、40年前は見たことがありませんでした。中年の男性と言えば、店長ぐらいでしたから。最近は若い人が減って、留学生や中高年が増えていますね」