ロシアのウクライナ侵攻から1か月以上が過ぎた。米国防総省高官は「3月22日、ロシア軍が戦力の10%以上を失った可能性がある」と報じた。
また、「戦況を見ると、ウクライナ軍の反攻もある、ロシア軍によるマリウポリの占領も間近、ロシア軍の攻撃の重点を東部・南部に転換する、キエフ攻撃のために再編成中」という報道もある。
ロシア軍とウクライナ軍の戦いは、一進一退の様相である。
ロシア軍は、再編成が完了すれば、再びキエフへの総攻撃をするのか、作戦の重点を本当に東部・南部に変更するのか。
また、NATO(北大西洋条約機構)などから軍事支援を得ているウクライナ軍は、現状で反転攻勢に出るのか、反攻を強めていくのか。
はたまた、両軍とも決定的な勝利を得ることなく、このままの戦況が継続するのか。これらについて予測するのは大変難しい状況だ。
しかし、ここであえて両軍の戦いの今後の展望、すなわち流れが変わるのか、その時の潮目(天王山)となる山場は何か、結末はどうなるのか、いつまで戦いが継続するのかについて予測したい。
戦況を予測するために、ロシア地上軍の損失を読み取って、今後、何ができるのか、戦争の行方や交渉進展の可能性について述べたい。
1.ロシア軍の実質投入戦力
ミリタリーバランスによると、地上作戦を実施するロシア地上軍は、陸軍が27万人、空挺部隊が4.5万人であり、合計すると31.5万人だ。
この数は、あくまでも編制に定められた定数であり、実際に充足された兵員の現員数は、この90%以下だろう。
注:ミリタリーバランスの数値を使用するのは、筆者が情報分析官であった時に、この数値が、信頼できるデータに最も近いと評価していたからである。
かつて、旧ソ連軍地上軍師団(1万~数万規模の部隊)の充足率は、高い方から概ね90、75、50、25%であった。
ソ連邦が崩壊してからは、充足率を高めて、行動できる現実的な部隊に改編され、師団、旅団A、旅団B(基幹兵だけの予備部隊)編成となった。この結果、充足率が低い部隊は解体された。
日本の自衛官の場合では、定員が24.7万人であるが、実際に充足されている現員は22.7万人であり、充足率は約92%である。
ロシア軍は、実情に合った編成に改編されていること、ロシアの財政問題などから、充足率は、日本と同じかそれ以下で80~90%と考えてよい。
31.5万人の90%だとすれば、28万人だ。
今回ウクライナに投入された兵力は、約18万人と見積られている。つまり、ロシア軍全体の約65%である。投入された兵器の数量も、軍全体の65%程度と評価してよいだろう。