米国防総省は18年の「核態勢見直し」の中で次のように指摘している。

「モスクワは限定的核先制使用の威嚇と演習を行っている。威嚇や限定的先制使用によって米国と北大西洋条約機構(NATO)を麻痺させ、ロシアに有利な条件で紛争を終わらせることができると誤解している。デスカレーションはモスクワに有利な条件で米欧が降参するという誤った想定から生じている」

 そして米国はロシアに対抗すべく、20年には戦略ミサイル原子力潜水艦への低威力核弾頭の実戦配備を終えている。

揺れる欧州の核兵器と安全保障

 安倍氏らが議論を呼びかける核共有政策に関しては、米国はドイツ、ベルギー、イタリア、オランダ、トルコのNATO加盟5カ国の空軍基地6カ所に約100発の核爆弾「B61」を配備していると推定されている。ドイツは30年までに核を搭載できる戦闘攻撃機トーネードを退役させる。引き続き核攻撃任務に参加するためFA18スーパーホーネット30機を調達して改良すると報じられたが、今回、一度は消えた米最新鋭ステルス戦闘機F35が再浮上してきた。

核攻撃任務を継続するためドイツで再浮上しているF35(右上、18年ファンボロー国際航空ショーで筆者撮影)
拡大画像表示

 欧州で独自の核抑止力を持つのは国連安全保障理事会常任理事国の英仏だけ。英国は冷戦時に最大520発の核弾頭を保有。冷戦後の1998年には280発まで削減され、2010年には225発と初めて保有数を公表した。20年代半ばまでに180発に削減する計画だったが、21年3月に核弾頭数の保有上限を260発に引き上げた。フランスは約290発をSLBMや空母艦載機などの空中発射巡航ミサイル(ALCM)に割り当てている。

 長年、核拡散防止に取り組んできた英有力シンクタンク「国際戦略研究所」(IISS)のアソシエイト・フェローであるマーク・フィッツパトリック氏は「プーチン氏の戦争は彼にとって順調に進んでおらず、超大国であることを誇示できる唯一のツールである核兵器を利用することを思いついたのだろう。欧州における米国の核戦力を削減する軍備管理交渉でバイデン氏がプーチン氏の顔色をうかがう可能性は排除できない」と筆者に語る。

マーク・フィッツパトリック氏(筆者撮影)
拡大画像表示

 マンハッタン計画に参加した物理科学者を中心に第二次世界大戦後、結成された米科学者連盟によると、米国は1950年代半ばに日本に核兵器を配備。54年から沖縄返還の72年まで沖縄には19種類もの核兵器が保管され、ベトナム戦争の最盛期には沖縄だけで約1200発が保管されていた。

 現在、東アジアなどの同盟国を支援するため米軍機が核爆弾のB61を使用する可能性があるとして、米ニューメキシコ州のカートランド空軍基地で欧州配備分以外の残り約130発のB61が管理されている。