弾道ミサイルや巡航ミサイルの設置を検討する日本
米国は中距離核戦力(INF)全廃条約の破棄を受け、アジアに中距離ミサイルを配備する計画を描く。日本は可能性の高い候補地の一つで、日本の指導者は弾道ミサイルや巡航ミサイルを日本本土に設置するアイデアを検討していると冨田浩司駐米日本大使が米メディアのポリティコに語っている。実現すれば、戦後日本にとって天地が引っくり返る政策の大転換である。
核アレルギーの強い日本にその覚悟はあるか。英国はヴァンガード級原子力潜水艦4隻を有し、常時1隻が哨戒している。英歴史家ピーター・ヘネシー氏の著作『秘密国家-英官庁街と冷戦』に「報復 ボタンと封筒」という章がある。1997年、トニー・ブレア英首相が就任して6日目、英国防参謀長から核抑止力の説明を受け、4セットの便箋と封筒を手渡された。立ち会いを許されたのは内閣府長官だけだった。
日本よりも国土が狭い英国は核兵器の第一撃に極めて脆弱だ。このため、第一撃を受けても第二撃を遂行できる能力として核ミサイルを最大で16基搭載できる戦略ミサイル原子力潜水艦4隻体制を維持している。英本土が灰燼に帰すような非常事態が起きた場合、海中に潜む原潜と連絡がつかないことが十分に想定される。便箋と封筒は、一瞬たりとも核抑止力に空白を生まないようあらかじめ4隻の艦長に手渡される極秘指令書だ。
(1)米国がまだ存在している場合、米国の指揮下に入れ(2)オーストラリアが存在している場合はそちらに向かえ(3)第一撃を英国に加えた国の首都に報復攻撃を行え(4)自らの判断に従え――という4つの選択肢から1つの指令を便箋にしたためて封印する。44歳になったばかりのブレア氏は顔面蒼白になった。ジョン・メージャー英首相は1人の人間に戻って判断すると言って首相官邸から自宅に戻り極秘指令をしたためたという。
幸いにもこれまでの極秘指令書はすべて開封されないまま破棄された。しかしプーチン氏がウクライナで低威力核弾頭を使うのを米欧が止められなければ、世界は「使える核兵器」による恐怖の時代に突入する。英イングランド南西部ウィルトシャーの地下30mに6000人のスタッフが90日間避難できる広さ13万7600m2の極秘施設がある。今は廃墟と化しているが、核戦争が起きた時に英政府が身を隠す核シェルターだった。
米欧と隊列を組む日本は、ロシアだけでなく北朝鮮、中国の核兵器の標的にされる恐れがある。安保理でロシアと中国が拒否権を持つ国連は全く機能していない。中距離ミサイルを日本本土に設置し、米国の核兵器を共有することになれば、私たちは「核の恐怖」と戦いながら生きることを覚悟しなければならない。プーチン氏が本性を現した今、私たちは見て見ぬ振りをしてウクライナの戦争をやり過ごすことはできなくなったのだ。