世界全体の約9割を占める米露の核弾頭数

 ストックホルム国際平和研究所(SIPRI)によると、昨年1月時点の保有核弾頭数は米国5550発(19年より250発減)、ロシア6255発(同120発減)で全体の約9割を占める。中国350発(同30発増)、フランス290発(19年から変わらず)、英国225発(同10発増)、パキスタン165発(同5発増)、インド156発(同6発増)、イスラエル90発(19年から変わらず)、北朝鮮40~50発(同10発増)と続く。

 核の超大国である米露は古い核弾頭の解体を進めるが、他の国々は核を増強している。

米露の保有核弾頭数:2021年1月(出所:SIPRIデータより筆者作成)
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  ロシアでは約1760発の退役核弾頭が解体を待っており、残りは約4495発。約2585発が攻撃用の戦略核弾頭で、うち約1625発が陸上と海から発射される弾道ミサイルと爆撃機基地に配備されている。昨年1月に5年間延長で合意した米露の新戦略兵器削減条約(新START)では大陸間弾道ミサイル(ICBM)や潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)、長距離爆撃機に実戦配備できる戦略核弾頭数は1550発に限定されている。

 ロシアの戦術核弾頭数(射程500km以下)は約1910発で、米国の10倍以上とされる。さらにロシアは核・ミサイルの近代化を進め、今年2月、地中海東部で実施する海軍演習のため核搭載可能な極超音速空対地ミサイル「キンジャール」をシリアに配備した。キンジャールは「他の戦略兵器システムとともに敵対者が先に行動を起こさないよう抑止するのに役立つ」(露航空宇宙軍のセルゲイ・スロビキン司令官)という。

ロシアとNATO同盟国の核兵器システム(出所:NATO「The Secretary General’s Annual Peport 2020」より抜粋)
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 ロシアの核ドクトリンは通常兵器による戦争を終わらせるためには限定的な核戦争も厭わない。「使える核兵器」と呼ばれる低威力核弾頭使用というエスカレーションによって紛争のエスカレーションを抑えられる(デスカレーションできる)と考えることはダイナマイトのそばで火遊びをするに等しい。破壊力が限られるとは言え、核兵器の使用は究極のエスカレーション以外の何ものでもないからだ。