無惨の成長

 無惨には、自らの異能を増殖させる特殊能力がある。鬼を食べると、その異能を吸収できるのである。

 彼らが「血鬼術(けっきじゅつ)」と呼ぶ鬼の異能は、無惨の計画や意図と関係なく取得される。その好例が、竈門禰豆子の血鬼術「爆血(ばっけつ)」である。爆血は人間には無害だが、鬼に対しては有害で、その再生能力を著しく低下させる。また鬼から発せられた毒素を消し去る力もある。どう考えても鬼に不利益な異能である。禰豆子がどうしてこのような異能を修得したのか、憶測が許されるなら、鬼を警戒する無惨の遺伝子の影響であるのではないだろうか。

 鬼たちは、無惨の遺伝子情報から増産される。しかし無惨は時として、自身の分身たる鬼たちが邪魔になり、殺害することを繰り返した。その代表がパワハラ会議と呼ばれる下弦粛正事件である(第52話)。これはおそらく鬼殺隊の柱育成を抑止するため実行したのだと思うが(参考:歴史家が考える鬼滅の刃③鬼舞辻無惨のパワハラ会議は本当か? https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/65675)、それはともかく本来なら日光か日輪刀でなければ死なないはずの鬼たちを、いとも簡単に殺害してしまっている。無惨には鬼を殺して喰らい、消化する特殊能力があるのだ(無惨以外の鬼は、鬼を殺害できない)。

 しかも鬼の禰豆子が、日光を浴びても死なない体質を獲得した。すると無惨は興奮して「この為に増やしたくもない同類を増やし続けたのだ/十二鬼月の中にすら現れなかった稀有な体質/選ばれし鬼」「あの娘を喰って取り込めば私も太陽を克服できる!!」(第127話)と希望の笑みを浮かべた。

 無惨は禰豆子を食べれば、その異能を取り込めると確信して歓喜したのだ。このセリフを見る限り、無惨はこれまで複数の鬼を食べ、その異能を吸収した経験を繰り返しているに違いない。中には響凱や魘夢のように人工の建造物と合体する異能の鬼もいただろう。もし無惨があと100年生きていたら、写メやインターネットと連動する異能の鬼を作ったかもしれない。

 ここまで、ある程度の情報を整理した。次回はこれを活用することで、作中でほとんど説明されていない平安時代後期から(戦国時代前期と重なる)室町時代までの無惨の動向を考えてみたい。

 飛び飛びで1年ほど続けてきた鬼滅の刃考証シリーズは、次回で最終回となる。少し早いが、ここまで続編希望のファンメールや葉書を送ってくださった方々にお礼申し上げます。

 

【乃至政彦】歴史家。1974年生まれ。高松市出身、相模原市在住。著書に『謙信越山』(JBpress)『平将門と天慶の乱』『戦国の陣形』(講談社現代新書)、『天下分け目の関ヶ原の合戦はなかった』(河出書房新社)など。書籍監修や講演でも活動中。昨年10月より新シリーズ『謙信と信長』や、戦国時代の文献や軍記をどのように読み解いているかを紹介するコンテンツ企画『歴史ノ部屋』を始めた。

【歴史の部屋】
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