『鬼滅の刃』11巻(部分)

(乃至 政彦:歴史家)

 鋭い視点と丁寧な考察で話題を呼んだJBpressでの連載をまとめた書籍『謙信越山』。著者の歴史家、乃至政彦氏が大人気漫画『鬼滅の刃』を読み解くシリーズ第6弾は、「鬼舞辻無惨の千年史」の最終回、鬼の王千年史をお届けする。(JBpress)

※記事中『鬼滅の刃』のネタバレを含みます。閲覧にはご注意ください。

歴史家が考える鬼滅の刃④-1 十二鬼月のホーリーネーム(前編)
https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/68405
歴史家が考える鬼滅の刃④-2 十二鬼月のホーリーネーム(後編)
https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/68519
歴史家が考える鬼滅の刃⑤-1 鬼舞辻無惨の誕生秘話を探る(前編)
https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/68520
歴史家が考える鬼滅の刃⑤-2 鬼舞辻無惨の誕生秘話を探る(後編)
https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/68521

鬼舞辻無惨と産屋敷一族の始祖

 前回の記事で、産屋敷一族の始祖が無惨の弟と推定する見解を述べた。今回はその推定をベースにして、鬼舞辻無惨の千年史を見ていこう。

 人気漫画『鬼滅の刃』に登場する産屋敷耀哉は、一言でいうと異能の一族である。しかし耀哉の生命力はとても儚く、わずか23歳で命の灯火を消してしまう。「限りなく完璧に近い生物」(第14話)を自認する鬼舞辻無惨とは、その個体性能において隔絶していた。

 産屋敷一族は「我が一族の誰も……三十年と生きられない…」という虚弱体質であった(第137話)。無惨と「同じ血筋」であるというのに、どうしてここまでの実力差がついたのだろうか。

 すべては無惨の歴史に手がかりがある。

 初期の無惨と産屋敷の始祖に、まだ大きな力の差などなかっただろう。双子の兄弟は、どちらも難病に苦しむ人間で、「善良な医者」がその完治に向けて工夫を重ねていた(第127話)。

 きっと治療が順調に進めば、どちらも健全な肉体を取り戻し、ごく普通の一生を終えたことだろう。だが、無惨兄弟は薬の副作用で、とてつもない異能の力を授かった。しかも医者の説明が不足していたのか、病状が悪化することに腹を立てた無惨が、「怪物」のような衝動に駆られて善良な医者を殺害してしまう。

 事後に知ったことだが、無惨の体調は回復に向かっていた。「医者の薬が効いていた」のだ。それどころか無惨は強靭な不死身の肉体を得ていた。ただし日の光を浴びると焼け死んでしまい、跡形も残らなくなってしまうという副作用も受けてしまっていた。

 無惨が調べたところ、医者も暗中模索の最中で、投薬は「試作の段階」であり、やがて「青い彼岸花」という薬を使う予定でいたことが、医者の作った調合の記録から判明した。そしてその「青い彼岸花」に関する手がかりは何もなかった。

 ここに2人は、完治への道を絶たれたのである。