『鬼滅の刃』22巻(部分)

(乃至 政彦:歴史家)

 鋭い視点と丁寧な考察で話題を呼んだJBpressでの連載をまとめた書籍『謙信越山』。著者の歴史家、乃至政彦氏が大人気漫画『鬼滅の刃』を読み解くシリーズ第5弾は、「鬼舞辻無惨の千年史:十二鬼月のホーリーネーム」に続き、無惨の誕生秘話を探る。(JBpress)

※記事中『鬼滅の刃』のネタバレを含みます。閲覧にはご注意ください。

歴史家が考える鬼滅の刃④-1 十二鬼月のホーリーネーム(前編)
https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/68405
歴史家が考える鬼滅の刃④-2 十二鬼月のホーリーネーム(後編)
https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/68519
歴史家が考える鬼滅の刃⑤-1 鬼舞辻無惨の誕生秘話を探る(前編)
https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/68520

鬼舞辻無惨の生まれ

 前回は『鬼滅の刃』の鬼舞辻無惨と平将門が同一人物であるとの説を検証して、全くの別人であることを論証した。今回はいよいよ無惨本人の隠された出生秘話に迫りたい。無惨には、弟がいるらしいのだ。

 鬼舞辻無惨が高位の貴族出身であることは疑いないが、血筋は不明である。名字は同音の「木仏寺」から派生しているように見えるものの、平安貴族に「寺」を含む名字は見られない。公家の名字は、邸宅のある京都の地名あるいは家業役職に基づくネーミングとなることが多い。無惨オリジナルの名字であり、その素性を探る手がかりとはならないだろう。

 ところで無惨の血筋を探るにおいて、見逃せない一族がある。

 産屋敷一族だ。

 無惨は1000年以上前から鬼狩りたちと抗争を続けており、作中では黒幕が産屋敷耀哉だと理解していた。無惨は、耀哉と初めて対面した時に、「身の程も弁えず千年にも渡り私の邪魔ばかりしてきた一族の長」と面罵した。

 対する耀哉は、ここで驚くべきことを無惨に伝えている。

「君は…知らないかもしれないが…君と私は…同じ血筋なんだよ…君が生まれたのは…千年以上前のことだろうから私と君の血はもう…近くないけれど……」

 なんと、無惨に「君は知らないかもしれないが」と前置きして、1000年前の無惨と、自身の一族が「同じ血筋」であることを告白したのである。

 死期の近い耀哉が、ここで適当な冗談を言うとは思われない。耀哉はこの情報を真実と認め、なおかつ無惨が今の瞬間までこの事実を知らないと確信していたからこそ、ここで知らせることにしたのである。

 2人の由緒と因縁を明らかにするのは、1000年の抗争に終止符を打つため、何を置いても果たしておくべきイニシエーションだったのだろう。