産屋敷始祖の異能
一方、産屋敷一族の始祖である双子の実弟はどうだろうか?
一族はごく初期から「未来を見通す力」を授かっていたかもしれない。SF的に想像力を働かせれば、東野圭吾の『ラプラスの魔女』の主人公のように、少量の知覚情報からその後の物理的展開を高い精度で予測する能力なのだろう。産屋敷家はこの能力により「財をなし幾度もの危機を回避してきた」という(第139話)。
そして、鎹鴉の開発と運用、階級を手の甲に示す能力の開発と授与がある。藤襲山や陽光山のような特殊ゾーンは自然発生するはずもないので、これらも産屋敷一族の異能によるのかもしれない。
こうして産屋敷一族の当主は、無惨の滅殺に特化する武力集団として、鬼殺隊を組織してきた。それはあくまで隠密裡の活動で、初めは数人単位から開始されたであろう。それが、平安時代→鎌倉時代→室町時代→戦国時代と継続され、そして江戸時代を経たあと、公権力たる明治政府と接触するに至る。
広大にして異質な私有地に政府の目が向かないはずがなく、新政府との対話は不可避であった。佩刀令が発布されたあとも鬼殺隊を運用するには、非公式の組織として無惨滅殺まで黙認させる必要があった。しかし新政府もあまり長期間、鬼殺隊の活動を許容することはできない。そうした事情もあって耀哉は自分たちの代で無惨を滅殺する意気込みを強めたのだろう。
このように無惨も産屋敷一族も、その異能をもって1000年の戦いと対峙してきた。無惨は個体として、産屋敷一族は代替わりを重ねて「想い」を伝え残すことで──。だがその間、産屋敷一族は特に新たな異能に目覚めることはなく、病弱な一族として始祖の力を継承しているだけだった。かたや無惨は長きに渡り、その異能をより増殖させてきたと思われる。