アイルランドのメイヨー郡にあるバリンタバー修道院

 アイルランドという国に皆さんはどのような印象を持たれているでしょうか。グレートブリテン島の西方に浮かぶアイルランド島の大部分を占めるこの国は、かつてはヨーロッパ最貧国とされていましたが、2020年現在、1人あたりGDPが約8.5万ドルとなり、ルクセンブルク、スイスに次いで世界第3位につける世界でも指折りの裕福な国へと様変わりしました(ちなみに日本は4万ドルで24位)。

 アイルランドの経済が浮上した理由の一つが、「タックスヘイブン化」です。法人税率を12.5%と大変低く抑えることで、それをフックに多国籍企業を次々と誘致し、経済成長に成功したのです。

(参考)貧しかったアイルランドはこうして富める国になった
https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/63245

 そしてもう一つ、大きな要因があります。世界中に散らばったアイルランド人の広範な経済ネットワークです。長らく深刻な貧困に苦しめられたアイルランドでは、祖国を離れ、異国に移住する人たちが後を絶ちませんでした。彼らのネットワークが、後にアイルランドの経済発展を助けることになります。

 まずはアイルランドの歴史からざっと振り返ってみましょう。

敬虔なカトリックの国

 アイルランドは、ケルト文化とカトリックの国として知られます。そして隣国のイギリスは、大英帝国を築いたプロテスタントの大国。この隣国の存在は、アイルランドの歴史に大きな影響を及ぼしてきました。

 かつてグレートブリテン島もアイルランド島もケルト人が支配する土地でしたが、ブリタニア(グレートブリテン島南部)のほうは紀元前55年にローマ帝国のカエサルが進入、さらに紀元後43年、皇帝クラウディウスの遠征により、ローマ帝国によって征服されてしまいます。以後、ブリタニアでは「ローマ化」が進みましたが、スコットランドやウェールズ、アイルランドにまではローマ帝国の支配は及びませんでした。そのため、これらの地域にはケルトの文化が消えることなく残りました。