総選挙の投開票日から一夜明けた11月1日、会見に臨む岸田文雄首相(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

(朝比奈 一郎:青山社中筆頭代表・CEO)

 10月末の総選挙を無難に乗り越え、岸田政権はまずは順調なスタートを切ったと評価しても良いと思います。私も含め事前の予想では「40~50程度の議席減もありえる」と見られていた自民党が、結果的には15議席減で踏みとどまりました。数字だけ見れば、岸田政権は一定の評価と期待を集めていると言えるのではないでしょうか。

 さて、来年7月には参議院選挙が控えています。これをうまく乗り切れたなら、岸田政権は、その後は衆議院の解散さえしなければ国政選挙は向こう3年間はないという「黄金の3年間」を迎えることができます。およそ3年間、選挙にエネルギーを割く必要もなく、また衆参両議院で安定的な議席数を確保していますので(参院選での勝利が前提)、日本の将来のための政治にじっくり腰を据えて取り組めることになります。日本の中長期的な課題に取り組んでもらうためにも、ぜひ日本に再び本格的安定政権が生まれること心から期待したいと思います。

 その岸田政権が掲げる中長期的なビジョンは何かと言えば、岸田首相が総裁選の際から打ち出している「新しい資本主義」ということになります。ただ、「新しい資本主義」とは何かということは必ずしも判然としていません。

今のところ「新しさ」が感じられない「新しい資本主義」

 当初は、菅政権や安倍政権の政策との差別化を図るため、「成長重視から分配重視へ」的なニュアンスで説明されていましたが、その後「成長しなけりゃそもそも分配の原資もないだろう」といった批判が噴出しました。岸田首相は金融所得課税の強化で財源を確保するつもりだったようですが、株式市場がこれに反応してか、株価が急落すると、議論の持越しを表明しました。そのため財源論も霧消してしまい、岸田首相肝煎りの「新しい資本主義」は現時点では、これまでとの違いが見えず、ちょっと焦点がぼやけ気味にも見えます。

 それでも政府は経済人や学者などの有識者からなる「新しい資本主義実現会議」を立ち上げ、その中身を詰めていくようです。期待したいところではありますが、この実現会議の事務方は、もともと内閣官房で成長戦略を担当していた部局も担うことになるようです。その事実を踏まえれば、この「実現会議」は、おそらくは経済成長路線もかなり強力に追求していくことになるのではないでしょうか。

 そうした実態も踏まえなら実現会議が発表した「緊急提言」を見てみました。わずかな期間しかなかったにしてはかなり網羅的でよく書けているという印象です。事務方の官僚の能力の高さを感じさせるものでした。

 ただ、率直に言って、安倍政権や菅政権との違いがよく分かりませんでした。「新しい資本主義」が看板の割には、「新しい」という言葉も「資本主義」という言葉も、どこか誇大広告気味というか、言葉だけが躍っているような印象なのです。