そうした議論の枠組みを飛び越えて、いきなり岸田首相が「全く新しい」資本主義を打ち出すのは考えられないというのが率直な感想です。やはりどんな言葉で着飾ってみても、岸田首相が打ち出す経済政策もこれまで議論されてきた枠組みの中に落ち着くことになるはずです。これまでの岸田首相の言動からみて、端的に言えば、政府の介入・関与を強化しよう、という、昔からある「一方の極」の方向にしかならないと思います。
市場の反発に耐えられるのか
さらにもう一点、「古くて(やや?)新しい資本主義」にならざるを得ないと私が考える理由があります。上でも示唆しましたが、現代の経済状況の中で「新しい資本主義」を主張するという意味は、どう考えても「行き過ぎたマーケットメカニズムを抑制しよう」とか「広がりすぎた格差を是正しよう」といった方向の政策を打ち出すことになるはずです。
個人的には私もそうしたスタンスのほうに共感を覚えるのですが、それを経済政策の前面に打ち出すと、マーケットを敵に回すことになります。もっと直接的に言えば、株価が急落することになりかねません。実際、前述したように、分配重視の政策の財源として金融所得課税の強化を打ち出した途端、東京市場の株価は急落しました(NYでの株下落の影響もあったとは思いますが)。慌てた岸田首相は金融所得課税をひとまず棚上げするという腰砕けぶりを晒してしまったのです。
そこへいくと、同じように政府による統制を強化中の中国は腰が据わっています。中国では現在、テクノロジー企業への締め付けを激しくしています。アリババ傘下の金融子会社が予定していた上場を直前になって中止させたり、テンセントに対して個人情報の保護強化を理由に新型アプリの投入を凍結させたりしています。もちろん中国の株式市場もこれらの政策に反応して下落したりしていますが、それで習近平政権の意志が揺らぐことはありません。企業の経済活動を犠牲にしてでも、極端に解釈すれば香港を壊滅させようとも、共産党支配を徹底させるんだという意志を貫いています。そういう強さは、残念ながら岸田政権にはうかがえません。