産業育成に政府はもっと深く踏み込んでいくべき
このように見てくれば明らかですが、「新しい資本主義」に解はないのが分かります。それでも岸田首相が看板政策として掲げられるとすれば、実質的にそれはマーケットから反発を受けない「古くて(やや?)新しい資本主義」しかないでしょう。
ですから「新しい資本主義」の「新しい」を強調しようとすると、どうしても誇大広告気味になってしまうのですが、今はフワーっとした期待感で誤魔化すことができますが、失望に変わった時が怖くもあります。そんな中、それでもあえて「新しい」切り口が実質的にあるとすると、私は以下のようなポイントが考えられると思っています。
それは即ち、「国家資本主義=ステート・キャピタリズム」を志向していくべきということです。方向として①外資に一定の規制をかけ、②国内産業の保護・育成に国が深く関わっていくのです。
まず、①に関してですが、グローバルにみれば海外ではそうした動きはすでに出ています。例えばGAFAと呼ばれるプラットフォーマーに対する規制です。「デジタル資本主義」とも呼ばれる現代は、データが富を生みます。ところがその国富たるデータが海外のプラットフォーマーにどんどん流出している現実があります。日本としてはまずはこれを抑え込むことが必要です。
これは世界共通の課題で、データの持ち出しや課税など、様々な角度からEUや韓国、米国でさえGAFA規制に乗り出しています。岸田政権としても、グローバルコミュニティと連携をしながら巨大プラットフォーマーを抑え込む方向を主導するというのはアリだと思うのです。日本がこれまで打ち出しているDFFT(データ・フリー・フロー・ウィズ・トラスト=信頼ある自由なデータ流通)をさらに推し進める方向です。おりしも経済安保ということが言われはじめていますが、その方向性とも合う考え方です。外資系企業に規制をかけていく方向などは「新しい資本主義」の一方策として違和感はありません。
さらにもう一点、②の方、つまり、国内的な産業の保護・育成についてですが、これはずばり、国が主導して「メガベンチャー」を育成するべきということです。以前、JBpressでも書きましたが、ベンチャー育成はずっと以前から「大切だ、大切だ」と言われてきましたが、世界に冠たる日本発のメガベンチャーの誕生となると、なかなか結果が出ていません。従来の策は産業革新機構や、コンテンツの分野だったらクールジャパン機構を作ったりするという、乱暴に書けば、おカネを出す機能の充実に力点が置かれてきました。そして、これでは日本の将来や新規産業を引っ張る「世界に冠たるメガベンチャー」育成には、十分ではないことも判ったと思います。
(参考)「なぜ役所が旗振っても日本に『メガベンチャー』は生まれないのか」https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/66268