おカネだけ出しても、肝心の人材がいないと意味がありません。そこで私は、起業家のための「士官学校」を作り、意欲と能力のある人材を育成し、そこを卒業した人には、世界に打って出られるようなメガベンチャーを作る使命を与え、同時に国がおカネも出す。そういったグローバル市場で戦える人を養成する新しい産業政策がいるんじゃないかと考えています。むしろ、そういう企業が次々出てこないと、日本経済の沈下は避けられません。ここに国の命運を賭けるくらいの覚悟が必要だと思っています。

すでに日本には国の命運を賭け産業を育成してきた経験が

 実は資源の少ない日本には、国の命運を賭けて産業を育成してきた経験があります。あらためて書くまでもないですが、かつて家電や自動車産業などは、それこそ名前からして気宇壮大なゼネラル・エレクトリック(GE)とか、ゼネラル・モーターズ(GM)といった、世界的なメジャー企業が牛耳る世界でした。パナソニックやソニー、トヨタやホンダが世界企業となった一因には、グローバルメジャーの国内での動きをできるだけ抑えつつ国内の産業を育成してきたという背景があります。ただ、もちろん、大きかったのは、何と言っても、松下幸之助氏、盛田昭夫氏、豊田佐吉氏・喜一郎氏、本田宗一郎氏といった世界級の人材の存在です。こういう方々を育てた日本(特に日本の各地域)の土壌はとても重要です。

 その他、例えば石油の開発企業に関しても、かなり厳しい戦いながら、日本は、ファイティングポーズを示してきました。シェルやエクソンモービルといった、いわゆる海外のオイルメジャーや、サウジアラムコなどの新セブンシスターズとも言われる資源国のオイルカンパニーに負けじと、政府主導で石油開発会社「国際石油開発」(設立当初の社名は「北スマトラ海洋石油資源開発」。インドネシア石油資源開発、インドネシア石油と改名し、現在は帝国石油との経営統合も経てインドネシア石油以来の略称である「INPEX」に社名変更)という国策会社をつくりました。同社は、世界のメジャーカンパニーと互角とは言えないまでも、インドネシアやイラン、カザフスタンなどで石油開発を行い、大いに存在感を示す企業になりました。

 かつては政府もそうした気概をもって国内産業を育ててきました。しかし現在はどうでしょうか。世界中を席巻するGAFAや中国韓国の新興勢力を抑え込もうともしているようには見えません。GAFAに圧倒されている国内のIT企業を支援する姿勢、国策的にメガベンチャーを作ってしまうという動きも今一つありません。これでいいのでしょうか。岸田首相が「新しい資本主義」を標榜するのであれば、新しい産業政策を出していくとことが唯一の解なのではないかと思うのです。