食道がんの「神医」の手術を回避した理由

金田:また、藤田先生は自分が執刀した患者を集めて毎月勉強会を開いているんです。難しいと言われている食道がん手術の後に患者を集めたら、中には予後の悪い人もいて、糾弾大会になりかねません。

 だから、患者を集めて勉強会をするということは、患者との関係や手術の結果に相当な自信がないとできないはずです。しかも、食道がんの手術をするかどうか迷っている人が納得して手術を受けられるように、この勉強会に参加を勧めてもいる。

 こういった情報を踏まえて、がんセンターの藤田先生であれば手術を任せられると思いました。それで、東大病院からがんセンターに転院し、藤田先生にダヴィンチで手術をしてもらうことにしたんです。

 ところが、書籍で書いている通り、私は藤田先生の外科手術をやめて、がんセンターでの放射線治療に切り替えました。

──なぜでしょうか。

金田:抗がん剤治療の3クール目を終える頃、がんセンターの内科医に相談したら、今から放射線治療も「あり」ですよ、と言われたからです。

 私が一番気になっていたことは、外科手術に比べて、放射線治療の5年生存率がどのくらい低いのかということでした。調べてみたら、10年以上前のデータでだいたい5%くらい低い、という結果だった。そこで私は、そもそも外科手術を受けた人と放射線治療を受けた人の母数が違うのではないか、と思ったんです。

 日本では、がんはすべて取り切った方がいいと思われています。だから基本は外科手術で、もし手術ができない場合には放射線治療をする、という発想が多い。だから、10年前に放射線治療をした人は、手術に耐えられないような患者さん、高齢者の方が多いのではないか。そうであれば、放射線治療の5年生存率が5%ほど低いのは当たり前のことで、それは「差」だとは言えないのではないか、と考えました。

 放射線治療は、ここ10年で劇的に進化しています。米シリコンバレーにあるVarian社の高精度放射線治療装置が非常に優れているという話も聞きました。その機械を、がんセンターでも使っていることが分かりました。

 この機械は、呼吸するたびに動く臓器を追尾するように、患部にしっかり放射線を当てられるようになっている。しかも、がんセンターは治療データも積み上がっている。そういうことを考えると、放射線治療の5年生存率が低いという結果は、現在では同程度か、または逆転しているのではないか、と推測したんです。

 結果的に、私の食道がんは寛解しましたし、今は普通に取材活動ができています。この時の仮説は間違っていなかったと思います。

外科手術から放射線治療に切り替えて寛解した金田氏(写真:Shunsei Takei)