「肋骨を折り、片方の肺を潰す」食道がん手術の壮絶
──最初に金田さんの担当になった東大病院の医師は、抗がん剤で腫瘍を小さくしてから手術を行い、食道を全摘して胃を3分の1に切り取り、胃を引っ張り上げて喉に繋げる、という方法を提案します。これに対して金田さんは、ご自身で治療方法をリサーチし、熟慮の末にロボットを使う方法や胸腔鏡といった低侵襲手術を望みます。そして、さらに調査と熟慮を重ねた結果、最終的に放射線治療を選択します。
金田:食道がんの手術は、食道にメスを到達させるために、まず肋骨を折ってから肺を片方潰さなければなりません。術後は、「ダンプカーに轢かれたほどのダメージがある」と表現されるほどの状態になります。
また、ロボットアームで胸の下から小さいメスを入れて、食道を切り出す手術方法もあります。この方法だと肋骨を折らず、肺も潰さなくて済みます。でも、手術に使うダヴィンチという機械は大病院にしかなく、持っていたとしても数台しかありません。もちろん食道がん以外の手術にも使われるので、手術の日程が決まらないとロボットが使えるかどうか分からない。
私の場合、東大病院で抗がん剤治療をした後に検査し、その時点で食道がんが小さくなっていたら手術の日が決まる予定でした。つまり、手術日が決まって、その日にダヴィンチが空いていて、さらに、ローテーションで執刀することになった医師がダヴィンチを操縦できる人であれば手術できる、という話だった。だから、東大病院で自分が胸腔鏡手術を希望しても、それが実現するかどうか、執刀医が誰になるのか、ということがはっきりしなかったんです。
それで、国立がん研究センター東病院(以下、がんセンター)にセカンドオピニオンを求めました。そうしたら、ロボットで手術する前提で、藤田武郎先生が「ここをこう切ると、こういう風に傷が残ります」と、図を描きながらきちんと説明してくれた。その場で「先生に手術してもらえますか」と聞いたら、「もちろん私がやりますよ」と言ってくれた。
食道がんやすい臓がんの手術は、がんの中でも難易度が高いと言われています。そのため、手術経験が豊富な病院で手術を受けた方がいい、「ハイボリュームセンター」という考え方があります。しかも、食道がんはリンパ節転移も多いので、リンパ節も同時に切除しないといけないんですが、どこまで切除するのかという判断は胸を開いてみないと分からない。
藤田先生は、年間100件以上の食道がん手術を行っていて圧倒的な知見と技術力がある。そのことも転院を決めた理由の一つです。