神奈川県中部に位置する座間市。人口13万人ほどの小さな自治体だが、ある取り組みで全国的な注目を集めている。それは、生活困窮者支援だ。この20年、日本をむしばんできた格差と貧困の拡大は新型コロナによって加速している。その中で、座間市は何をしているのか。生活援護課の取り組みを追う。(篠原匡:編集者・ジャーナリスト)
◎こちら座間市・生活援護課 第2話:断らない生活支援の本質(https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/67709)
◎こちら座間市・生活援護課 第3話:コミュニティの猛者たち(11月17日公開予定)
◎こちら座間市・生活援護課 第4話:生活援護課のメンバー(11月18日公開予定)
◎こちら座間市・生活援護課 第5話:「規格外」の役人(11月19日公開予定)
【昔の自分】
「福祉部 生活援護課」。座間市役所1階の天井から部署名が書かれた看板が下がっている。目の前を通り過ぎる人々は、ここが人口13万人の街を支えている「中心」とは誰も気づかない。だが、行き場を失った人々は、ここを目指してやってくる。
県道から役場のエントランスをくぐると、目の前に広がる市民ホールの空間。さらに奥に進み、小さな庭園を抜けると、この生活援護課がある。
仕事を失い、住む場所を追い出されて、路頭に迷う住民が訪れる。中には、興奮のあまり声を荒らげる人もいるが、窓口の担当者のおだやかな対応を前に、いつしか興奮していた者は落ち着きを取り戻す。
神村里江子(仮名)。彼女が生活援護課で勤務するようになったのは、今年の春のことだった。それから週2日、朝8時30分から17時15分まで窓口に座っている。
生活援護課は生活保護や就労支援、子供の学習支援など様々なサービスを提供している。既に生活困窮者となっている住民だけでなく、その「予備軍」にも救いの手を差し伸べる。「誰も断らない」。それが座間市役所・生活援護課のモットーだ。
神村は窓口担当として、収入報告に来たり、「医療券」を受け取りに来たりした生活保護受給者を担当のケースワーカーにつないでいる。だが、1年前はカウンターの向こう側にいた。
「なぜ、私がここにいるのだろう」
時折、神村の頭をそんな不思議な気分がよぎる。カウンターの向こう側で立ち尽くしていた自分の姿を思い出すたびに。
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