超高齢化社会の日常(撮影・編集:Retsu Motoyoshi)

(篠原匡:Voice of Souls 編集者、ジャーナリスト)

 福岡県太宰府市──。閑静な住宅地の一角に、周囲の光景とは不釣り合いな戸建てが建っていた。一見すれば普通の木造2階建てにも見えるが、よく見ると、張り出した玄関庇は大きく、支える柱もパルテノン神殿をもしたようなエンタシス(胴張り)になっている。ベランダは円形で、大開口のデザイン窓や出窓が家を覆う。

主がいない部屋のグランドピアノ(撮影:Retsu Motoyoshi、以下同)
特徴的ならせん階段

 随所に所有者のこだわりが見えるのは、家の内部も同様だ。玄関を入ると、まず目に飛び込むのはらせん階段。その左にある居間には吹き抜けがあり、右には半地下など天井の低いフロアが3室並んでいる。

 らせん階段を上がって最上階に上がる。その空間は、壁一面が鏡で覆われ、真ん中にグランドピアノが置かれていた。モダニズムの先駆けとして知られるスチールパイプを曲げたワシリーチェアもある。音楽が好きだったのだろうか。大型ステレオコンポだけでなく、吹き抜けの壁にはラジカセが吊してあった。男性の一人暮らしとしては、かなり洒落た造りの家である。

 この家の住人はもういない。