川崎市のナノ医療イノベーションセンター(iCONM)

 川崎市のナノ医療イノベーションセンター(iCONM)の研究グループが10月12日、脳腫瘍の治療に繋がり得る世界初の手法を開発したと発表した。

 それは、ノーベル生理学・医学賞の受賞で知られる「免疫チェックポイント阻害薬」を脳腫瘍のある場所に届けて治療効果を発揮させる新手法だ。免疫チェックポイント阻害薬は肺がんをはじめさまざまながんに効果を発揮し、生存期間の延長に貢献していることであまりにも有名だが、脳腫瘍に対して効果を十分に発揮できずにいた。なお、今回の記事では悪性脳腫瘍のことを脳腫瘍と書くこととする。

 今回、iCONMが開発した手法を用いることで、従来の18倍に達する免疫チェック阻害薬が脳腫瘍のあるところに届き、がんの抑制が可能になるということが明らかになった。以下、今回の画期的な成果を解説しよう。

【参考資料】
ナノ医療イノベーションセンター(iCONM)
https://iconm.kawasaki-net.ne.jp/

片岡一則氏がリードするナノ医療イノベーションセンター

 iCONMは、医療におけるナノ技術で世界的にその名を知られる片岡一則氏が率いている。

 化学工学出身の片岡氏は東京大学教授などを歴任した。高分子化学を活用したナノテクノロジー開発に尽力し、工学と医療の接点を拡大してきた。医療におけるナノ技術を進化させた最大の貢献者と言える存在だ。

 片岡氏を筆頭に、iCONMでは薬にポリマーを付着させることで、「装置(マシン)」のように薬の動きを体内でコントロールできる化合物の開発を進めてきた。まるでナノサイズのマシンのように機能するため、同研究所では「ナノマシン」と常々表現している。

 体内というミクロな環境で、あたかも病院のように診断や治療が可能になる将来を想定して、「体内病院」を目指すという大きなビジョンを描く。

 これまでにもがんや認知症などで成果を上げてきたが、がん治療で不可欠になりつつある「免疫チェックポイント阻害薬」においてもナノマシン化を実現する道をこのたび開いた。