「反省して罪を償ってないのに子どもを返せるわけないやろ!」

 逮捕後、Aさんは警察署の中の鉄格子の付いた留置場に入れられました。そして、番号で呼ばれながら、トイレ休憩もないまま、警察官による厳しい取り調べを受けることになったのです。

 Aさんはそのときの悔しさを語ります。

「取り調べにあたった警察官は、私のことを『お前』とか、下の名前で呼び捨てにして、厳しい口調で問い詰めてきました。でも、私は絶対に我が子への虐待などしていないので、徹底的に黙秘しました。そして、弁護士さんから手渡された『被疑者ノート』に、取調べの状況を正確に書き込もうと、警察官に投げかけられた酷い言葉の数々を必死で記憶したのです」

 被疑者ノートには、以下のような信じがたい言葉も記されていました。

「これで家に帰したら、次はBを殺すぞ。反省して罪と向き合って罪を償ってないのにBを返せるわけないやろ!」

 逮捕翌日には、裁判所が勾留を決定、しかし勾留決定に対する異議(準抗告)を出したところ、これが認められて3日後に釈放。その約3カ月後、Aさんは嫌疑不十分で不起訴処分となりました。

 それでも、Bくんの一時保護はなかなか解除されず、自宅に帰って親子3人がそろったのは、不起訴処分からさらに3カ月後のことでした。

 Aさんは振り返ります。

「私の不起訴処分が決まったとき、息子が入所していた乳児院の保育士さんたちは、泣いて喜んでくださいました。結果的に、私たち親子は400日以上も離れ離れの生活を余儀なくされたのです」

 もちろん、Bくんがけがをしたのは事実です。その原因をしっかりと調べるのは大切なことでしょう。しかし、逮捕された後の警察の取り調べは、果たして適切だと言えるのでしょうか。

 大切な我が子にけがをさせ、一番悲しく、辛い思いをしているのは、一緒にいた母親のAさんのはずです。その彼女に対して、冒頭のような言葉で強引に自供を迫るのは、とうてい看過できるものではありません。