(柳原 三佳・ノンフィクション作家)
9月25日、取材中の「揺さぶっれっこ症候群」事件で、またしても無罪判決が下されました。
その概要は以下のとおり、すでにテレビ、新聞など多くのメディアが報じています。
『乳児揺さぶり訴訟で母に無罪判決 岐阜地裁「犯罪証明できない」』(2020.9.26/東京新聞)
https://www.tokyo-np.co.jp/article/57846
『「落下事故否定できず」乳児揺さぶり、母無罪 岐阜地裁』(
2020.9.26/岐阜新聞)
https://www.gifu-np.co.jp/news/20200926/20200926-277164.html
生後3カ月の男児が脳に出血を伴うけがを負ったのは、2016年のこと。母親(27)は、「誤ってソファから転落させてしてしまった」と懸命に説明しましたが、虐待を疑われてしまいます。
児童相談所は後遺障害を負った男児を一時保護して両親から引き離し、捜査機関は男児と一緒にいた母親を傷害罪で逮捕、起訴、5カ月間勾留し、検察は懲役5年を求刑していました。
岐阜地裁で始まった刑事裁判では、男児のけがが「乳幼児揺さぶられ症候群」か、それとも「転落事故」かをめぐり、検察側の証人である内科医と眼科医、そして弁護側の証人である脳神経外科医の意見が真っ向から対立していました。
しかし、長い審理の末、岐阜地裁の出口博章裁判長は、内科医と眼科医の証言を退け、脳神経外科医の証言を採用。結果的に、「傷害が揺さぶりによって生じたと認めるには合理的疑いが残る」として無罪を言い渡したのです。
身に覚えのない「揺さぶり虐待」
この時点で、母親が逮捕されてからすでに3年以上の歳月が経過していました。
無罪判決が下された日、母親は、
「私は息子に対して一切の暴行を加えたことはありません。息子が重篤なけがをしてしまった原因はソファから落下したことによるものであり、あまりに軽率な行動だったと深く反省しています。なんであの日に限って目を離したんだと、自分で自分に怒りをぶつける日々です」
自身の深い悔恨の気持ちとともに、我が子のけがを「虐待」と決めつけた医師らに対する怒りを、弁護士を通してこうコメントしています。
「虐待児を直接診察などしたことのない内科医が書いた鑑定書と、非常に問題のある眼科医の意見書をうのみにして、逮捕にふみきったということ、なぜこんなことがまかりとおったのか理解できません。無罪を勝ちとれても、すぐにもとの生活が戻るわけではありません。時間は絶対に巻き戻せません。まったく身に覚えがないことをでっちあげられ、押しつけられ、身勝手に犯罪者に仕立てられ、世にさらされて平穏な生活を理不尽に奪われるのです。何もしていないのに罪人として他人から見られ、扱われる立場をしっかり考えて、まともな活動をしてほしい」