競争的資金ばかりの現状
話を戻そう。現在の研究環境では、「交付金」はほぼなきに等しく、代わりに競争的資金が研究資金の主流となっている。競争的資金が獲得できなかった研究者は、他の研究者の下で働くしか、研究活動ができない。下働きに忙殺されるようになり、大胆な試行錯誤はできなくなる。競争的資金は、すでに芽が出た研究テーマを実用化するなどには向いているが、大胆な試行錯誤を可能にする制度とはいいがたい。
日本で画期的な成果が出なくなる、とノーベル賞受賞者が警鐘を鳴らしているのは、競争的資金ばかりにしてしまったことで、多くの研究者を「PDCAの罠」にかけてしまったからだ、と言えるように思う。
自由度が高い研究資金の確保を
私の体験や他の研究者からの声を踏まえると、画期的な研究成果を増やすには、
1、「研究関連のことに使う」ということ以外に義務のない交付金を厚めに配ること
2、実験機材更新のための資金の配分
の2点が望ましい研究支援制度だと思われる。
日本人ノーベル賞受賞者が続いているのは、上記の条件がまだしも揃っていた時代に研究を積み重ねてこられたからのようだ。そのような研究環境が失われた状況が今後も続くなら、将来、ノーベル賞級の画期的な研究成果は果たして出るのだろうか。
政策担当者には、本稿で検討した視点もぜひご一考いただきたい。