「1億総火の玉」で五輪突入を強いられた日本国民

 報道によると、この尾身会長の一連の発言に、政府高官や自民党幹部の間では、「言葉が過ぎる」「尾身氏はオリンピックの開催を判断する立場にはない」「(首相はオリンピックを)やると言っている。それ以上でも以下でもない」などと、批判する声があるほか、首相官邸幹部は「尾身氏をグリップできない」などと言及していることが伝えられた。

 オリンピックありきで政治家が専門家の科学的知見に耳を傾けない。それはまるで戦時中の日本を連想させる。

「五輪開催」の姿勢を決して崩さない菅義偉首相(写真:つのだよしお/アフロ)

 そもそも、尾見氏が会長を務める政府分科会の役割は、国民の生命を守るべく、文字通り新型コロナウイルスの感染拡大を抑止するために政府が対策を打ち出すにあたって、ド素人の首相から役人たちに専門的な知見と助言を与え、政策の諮問があればこれに答えることにある。菅義偉首相が口にするようにこれが「新型コロナウイルスとの戦い」すなわち戦争であるとするのなら、いわば政府が選任した参謀役である。

 その会長が東京オリンピックにおける感染リスクについて見解をまとめるというのに、現場指揮を取る厚生労働大臣の黙殺発言はあり得ない。