You are what you eat

 2021年2月26日、スウェーデン・ヨーテボリ大学のジャスティン・ソヴァージュ博士らの研究グループは、『ネイチャー・コミュニケーションズ』誌に「水の放射線分解による海洋堆積物中の生命への寄与」という研究結果を発表しました*2

 海底に穴を掘って岩石を採取し、水と一緒にして、アルファ線やガンマ線などの放射線を当てたところ、水素分子が多量に発生した、という実験結果です。おそらく岩石が何らかの触媒として働き、水素分子の発生を助けるのでしょう。(なんだか錬金術的で楽しそうな実験です。)

 また別の研究グループ、カナダ・トロント大学のバーバラ・シャーウッド・ロラー教授らは、2021年2月1日、カナダの岩盤の地下2.4 kmから採取した地下水に、蟻酸(ぎさん)や酢酸(さくさん)などの有機化合物(炭素を含む化合物)が見つかったと発表しました*3

 この有機化合物は、地表の生態系に由来するものではなく、やはり放射線のエネルギーによって地中の化学反応で生成されたと見られます。

 水素分子や有機分子や、それら分子との化学反応で生成される物質は、ある種の微生物にとって栄養源になります。そうした微生物は水素分子や有機分子をごちそうとしてぱくぱく食べ、繁殖します。するとそれを別の微生物が餌として食べて繁殖し、さまざまな生命がエネルギーの分配にあずかることが可能です。

 地中には、ウラン238やトリウム232、カリウム40といった放射性の原子核が微量に存在します。それらの不安定な原子核は、何億年もの時間をかけて、放射線を出しながらゆっくり崩壊していきます。

 もしもその放射線が、水素分子や有機化合物を意外に効率よく生産していたら、それによって微生物群集が食っていけるかもしれません。つまりもしかしたら、地中の生態系は、地中の原子核崩壊によって成り立っているのかもしれません。これは原子力によって維持される生態系といえます。