次は火星?! 

 地中の生態系はそれ自体魅力がありますが、特に興味深いのは宇宙生物学への応用です。

 今のところ、生命の発見されている(それもいたるところに)天体は地球だけです。

 しかし、火星など他の惑星やエンケラドスなどの衛星、よその恒星を周回する惑星に、生命がいないとも限りません。どのような環境の天体に生命や生態系が存在しうるのかは、真剣な議論の対象です。

 今のところ、表面が液体の水に覆われている惑星が、生命を宿す候補天体として有力とされています。

 しかしもしも、放射線によって維持される地下の生態系が存在するならば、がぜん生命候補天体は増えます。

 例えば火星の表面は、現在は乾燥しきっていますが、地下には塩水が存在すると考えられています(図:ヘール・クレーターの中央の突起から流れる水)。

火星のヘール・クレーター。中央の岩場から左上方向に水が流れている。マーズ・リコネッサンス・オービターの高分解能カメラHiRISEによる画像の擬似カラー写真。 Image by NASA/JPL-Caltech/University of Arizona.

 火星には地球と同程度の放射性物質があると推定されます。もしかしたら、火星の地下にも、地球のような原子力生態系が生き残っているかもしれません。期待させられます。

 それにしても、地面を掘ったら膨大な生態系が見つかり、それが放射線によって維持されているらしいと分かり、宇宙生物学にもつながるとは、サイエンスはどこに何が埋まっているか分かりません。

*1:Li-Hung Lin, Pei-Ling Wang, Douglas Rumble, 2006, “Long-Term Sustainability of a High-Energy, Low-Diversity Crustal Biome”, Science 314, 479-482.

*2:J. F. Sauvage, A. Flinders, A. J. Spivack, et al., 2021, “The contribution of water radiolysis to marine sedimentary life”, Nat. Commun. 12, 1297.

*3:B. Sherwood Lollar, V. B. Heuer, J. McDermott, S. Tille, O. Warr, J. J. Moran, J. Telling, K.-U. Hinrichs, 2021, “A window into the abiotic carbon cycle - Acetate and formate in fracture waters in 2.7 billion year-old host rocks of the Canadian Shield”, Geochimica et Cosmochimica Acta 294, 295-314.