アヴドゥラはその朝、いつも通り「じゃあ、行って来るね」と明るく家を出たという。
「それが最後の別れの挨拶でした」
誰も戦争は望みはしない。まして最愛の息子の死を望む人間などいない。せめて息子はパレスチナを守る為、自分達を守る為に命を投げ出したと理解してやらなければ・・・。それはどこの国でも繰り返されてきたことだ。
圧倒的に武力で勝る国と戦う時、残された武器は精神論しかない。
「“神との約束の地”を守る為には命を投げ出してでも戦う。シオニストには屈しない」
そういうハマスの主張はガザ地区の多くの人間の支持を集め、その後これまでハマスは第一党としてガザ地区を実効支配してきた。
イスラエルの報復
話を2002年に戻そう。
ある朝、アズミに叩き起された。
「ラファが攻撃されている!」
ラファはエジプトとの国境の町だ。前日の夕方にハマスの特攻隊4人がイスラエル軍のキャンプ地に攻撃をかけ、3人のイスラエル兵士を殺したが、自分たちも死んだらしい。その報復で、今度はイスラエル軍がラファの難民居住区を攻撃しているという。
慌ててラファに向かった。