自爆した「英雄」の父、表に出せない悲しみ

 話を聞いた若者たちとは笑い話のようにしてしまったが、やはりずっと、若者たちが起こす自爆テロの事が心に引っかかっていた。

 どんな青年が自爆にまで走るのか・・・。

 アズミと共に自爆した一人の青年の家族を訪ねて、ガザの中心部から車で1時間半程のハンユニスという町に向かった。

 ハンドルを握るアズミがポツリと話し始めた。

「自爆テロがいけないことぐらい百も承知だ」

「ただ、彼らの事を考えるとたまらない。僕は同じパレスチナ人として、彼らの気持ちが多少なりとも理解できる。イスラエルは陸から戦車で、空から戦闘機でやって来る。そして、武器を持たない女性や子供までもが平気で殺されている。満足に対抗できる武器なんか何も持たない我々は、自分の体を吹き飛ばすという手段でしか抵抗できないんだよ。自爆は有効なカードなんだ」

「自爆テロでハマスは過激派テロ組織と非難されているが、他に手段がないんだ・・・」

 ハンユニスはハマスの拠点だった。町に入るとコンクリート塀や家の壁、電柱など、至る所に貼られたポスターが目についた。それは戦闘で命を落とした兵士たちのポスターだった。彼らは“殉教者”として人々から敬われている。

 アズミが一枚のポスターを指差した。これから訪ねる家の息子アヴドゥラ・イル・アッサのポスターだ。アヴドゥラは大学でエンジニアリングを専攻する学生だったが、前の年、ハンユニス近郊のユダヤ人入植地で6人のイスラエル兵士を巻き添えにして自爆した。19歳だった。

 アヴドゥラの父親は突然訪ねて来た我々を家に招き入れ、話をしてくれた。

「あの日、アヴドゥラは夜中になっても帰ってこなかった。いつも家族と夕食を食べるのに・・・。翌日テレビで息子が自爆した事を知った。妻はその場で倒れ込んでしまった」

 家族の誰もアヴドゥラがハマスのメンバーになったことは知らなかった。そんなことを考えていたとは気づきもしなかったという。

「息子がいくらパレスチナの英雄だと褒め称えられても、息子の死を喜べるはずはない。でも『悲しい、辛い』とは口に出せない。ここでは英雄の父親なんですから」

「息子は幼い時から手のかからない優しい子だった。でも、生まれてからずっと争いの中で育ってきたのです。友達も何人かが死んでいます。きっと自分がのうのうと生きていることに耐えられなくなったのでしょう」

「息子が巻き添えにしたイスラエル兵の家族は、私達よりももっと悲しんでいるでしょう。きっと一生怨むでしょう」

 物静かにそう語ると父親はぐっと口を噛んだ。自爆テロを起した青年の家族からそんな言葉が出てくるとは・・・。