このチラシが問題となり、キム氏は同年10月からこれまで、1年6カ月余りにわたり断続的に警察の取り調べを受け、ついに4月8日に検察に送致され、侮辱罪で起訴される羽目となった。韓国の刑法上、侮辱罪は、被害を受けた本人か、その代理人が告訴しなければ、捜査も起訴もできない親告罪に当たる。韓国メディアは「キム氏を告訴した張本人は文在寅大統領である可能性」を提起した。

大統領府は「大統領の代理人が告訴」と弁明

 キムさんは『中央日報』とのインタビューで、警察による取り調べの際に「私を告訴した人は誰か」と警察官に何度も尋ねたが、「自分で分かると思う」「私の口からは言えない」という返答しか受けられなかったという。これに対して弁護士は、「侮辱罪被疑者は告訴主体と時点等の情報を知る権利があるのに、警察が告訴人を明かさないのはキム氏の防御権を侵害する行為に当たる」と指摘している。

『中央日報』は、キム氏がこの事件のせいで警察から携帯電話を3カ月間押収され、10回以上も警察に出頭させられるなど、厳しい調査を受けてきたとも伝えている。また、同紙の記者も警察に対し、「キム氏を告訴したのは文大統領か」と質問しているという。警察からは「言いにくい」と答えが返ってきたので、「法理上、文大統領やその委任を受けた者が告訴したとしか考えられないのではないか」と問い返すと、「勝手に書けばいい」という答えが返ってきたと報じた(中央日報電子版4月28日の記事「文大統領批判ビラを散布した30代が侮辱罪送検・・・告訴人は誰か」)

 ちなみに、キムさんは警察の調査が進行中だった昨年夏、月刊誌の『新東亜』とのインタビューでも、「最初の取り調べの時、『この事案がVIP(大統領)に報告された。“北朝鮮の犬”という表現が深刻だ。(告訴した側は)必ず処罰を望んでいる』という趣旨の言葉を警察から聞いた」と暴露している(新東亜2020年7月号「北朝鮮が茹でた牛頭と言えば黙っていて国民は立件するのか」)。