文在寅大統領(写真:YONHAP NEWS/アフロ)

(武藤 正敏:元在韓国特命全権大使)

 ソウル中央地裁民事15部(裁判長:ミン・ソンチョル部長判事)は21日、元従軍慰安婦が日本政府を相手取って起こした第2次慰安婦訴訟の損害賠償について請求を却下する判決を言い渡した。今回の判決は「国家の行為や財産は他国の裁判所では裁かれない」という国際慣習法上の「主権免除」を認めたものである。

 他方、今年1月8日ソウル中央地裁に元慰安婦が起こした同様の第一次訴訟(裁判長・キム・ジョンゴン部長判事)の判決では「日本帝国主義の反人道的不法行為に対して国家免除(主権免除)を例外的に適用してはならない」とし、「訴訟費用は日本が負担せよ」とまで注文を付けていた。

 わずか3カ月の間に同じソウル中央地裁が正反対の判決を出すことは極めて異例なことである。今回の判決は日本政府にとっては当然の内容であるのだが、2つの判決の間に何があったのか、それは今後の司法の判断にどう影響するのか、今後の日韓関係にどのような意味を持つのか、多くの疑問を提起することになった。

2015年の慰安婦合意の効力を認めた判決

 21日の判決では、李容洙(イ・ヨンス)さんや故金福童(キム・ポクドン)さんら正義連が支援する元慰安婦20人が日本政府を相手取り起こした、一人当たり1億ウォン(約970万円)の慰謝料請求訴訟で「国際慣習法の国家免除原則に基づき日本政府は訴訟の対象にはならない」との判断を示した。

 この判決では「韓国政府は日本政府と慰安婦被害者問題の解決のため交渉を進め、2015年合意に至った。当該の合意は依然として有効」とし「韓国政府の外交的保護権行使が継続する限り、訴訟ではなく代替の権利救済手段がある」として原告らの「訴訟だけが最後の手段」という主張を認めなかった。