(ジャーナリスト・近藤大介)
文在寅大統領は、いまから一年半前の昨年5月10日に、第19代韓国大統領に就任した。その前日に大統領選挙が行われたが、選挙に先立って、計3回にわたって有力候補者たちによるテレビ討論会が開かれた。私はその模様を、インターネットテレビの生放送で見たが、文在寅候補のスピーチは、他の候補者たちを圧倒していた。経済、安保、教育、福祉・・・どの問題を論じても、トレードマークの白い歯を見せた作り笑いを浮かべながら、完璧に答えた。ひところ国民的人気を呼んでいた安哲秀候補などは、文在寅候補の「引き立て役」にすぎず、誰が次期韓国大統領にふさわしいかは一目瞭然だった。
かくして大統領選に圧勝した文在寅氏は、大統領就任演説で、「手ぶらで青瓦台(韓国大統領府)に入り、5年後には手ぶらで出ていく」と宣言。ろうそくデモによって朴槿恵大統領を引きずり下ろした韓国国民は、熱狂して新大統領を迎えた。政権発足時の支持率は8割を超え、日本で2009年夏に政権交代を果たし、発足時の支持率が7割を超えた鳩山由紀夫政権を髣髴させた。
「誰にでも笑顔」が文在寅スタイル
文在寅大統領の選挙期間中のスピーチや、配っていた「文在寅との百問百答」のパンフレット、それに就任後の青瓦台のホームページなどから判断するに、文在寅政治とは、究極の「八方美人政治」である。文在寅大統領の政治の師匠は、金大中元大統領と廬武鉉元大統領だが、その政治手法は、むしろ金泳三元大統領に近い。
文在寅大統領は、誰にでも優しく手を差し伸べる。財閥にも笑顔、労組にも笑顔だ。外交で言うなら、同盟相手のドナルド・トランプ大統領に笑顔、同胞の金正恩委員長にも笑顔、そして隣国の安倍晋三首相にも笑顔だ。
安倍首相側近に聞くと、文大統領は安倍首相との日韓首脳会談で、慰安婦などの歴史問題や竹島の領土問題について、激しく言い寄ってきたことは一度もないという。それよりも、「未来志向」を掲げ、朴槿恵前政権との違いを強調するという。