ファイザーのワクチン接種を待つイタリアの人々(写真:AP/アフロ)

 筆者は2001年頃から医療分野を取材しており、医療を一変させた医療技術をいろいろと目の当たりにしてきた。例えば、C型肝炎ウイルスの「直接作用型ウイルス薬(DAA)」と呼ばれる薬剤は、そうした医療技術の一つである。

 2000年代まで、C型肝炎ウイルスというと、注射の回し打ちなどで感染し、いったん感染すると、体からなかなか消えないというのが常識的だった。C型肝炎ウイルスにはいくつかの型があり、日本で多かった1b型は、特に治りづらく、薬の投与法を変えるなどして治療するものの、体からウイルスが消えるのはよくて3~4割という状況だった。ウイルスが消えなければ、肝臓の炎症が悪化して肝硬変になり、一定割合で肝臓がんになってしまう。薬の投与も点滴で、副作用として抑うつがあるなど、肉体的、精神的な負担も伴うものだった。

 だからこそ、2012年に通常の飲み薬の投与で、C型肝炎ウイルスがほぼ100%消失したという研究発表が出た時は医療界に驚きが広がった。事前の感想は医師でも「たかが飲み薬」という、侮る気持ちもあったかと思う。その研究発表がされた医学会に筆者も出席していたが、会場が騒然としていたのを今でも覚えている。それが直接作用型抗ウイルス薬だった。

ファイザーが3CLプロテアーゼ阻害薬の開発を進める必然

 新型コロナウイルス感染症は目下、感染者の増加をとどめる手段が足りていない。ワクチン接種も滞り、死亡者も増加傾向にある。そうした中で、光明になり得るのは、予防薬であるワクチンではなく、感染症そのものを治す治療薬の登場だ。

 その意味で、この3月に米ファイザーがプロテアーゼ阻害薬の治験を開始したと発表したのは、日本ではあまり注目されていないが、大きな出来事だろう。日本語のプレスリリースはなく、英語のプレスリリースしかないが、「3CLプロテアーゼ阻害薬」という飲み薬タイプの薬剤である。

「3CLプロテアーゼ阻害薬」については、2020年8月に「コロナ退治に光明、世界で進む治療薬候補を徹底解説」という記事で、猫コロナを退治した薬剤として紹介している。ファイザーが手がけたのは同類の薬剤だ。ファイザーの最高経営責任者(CEO)であるアルバート・ブーラ氏は獣医師であり、コロナ感染症と動物医療との接点という観点で、ファイザーが3CLプロテアーゼ開発を早々に進めたことは偶然ではないと考える。

獣医師でもあるファイザーCEOのアルバート・ブーラ氏(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)