(岩田 太郎:在米ジャーナリスト)
医療品の許認可を行う米食品医薬局(FDA)と、ワクチン接種指針を作成する米疾病対策センター(CDC)は4月13日、米製薬大手ジョンソン・エンド・ジョンソン(J&J)が開発した1回接種型の新型コロナウイルスのワクチンについて、米国内での接種の一時中止を勧告した。12日時点で約680万人が接種を受け、うち6人の女性(18~48歳)が血小板減少を伴う脳血栓を発症し、1人が死亡、もう1人が重症となっているためだ。
このJ&J製のワクチン接種を、一時中断の前日である12日に受けたのが、在米の筆者とその20歳の大学生の息子だ。重篤な副反応のニュースには驚いたが、接種前にある程度リスクは理解していたため、冷静に受け止めている。ワクチン接種拡大を待ち望む日本の読者と体験を分かち合い、改めて「接種の意義」や「待機の利点と欠点」を考えてみたい。
米国ではワクチン接種が急加速している。ワクチンの総数で2億回分、全人口では3分の1以上、最も高リスクの65歳以上のグループでは80%が接種済みになった。例外的に感染者数が急増している中西部ミシガン州のような場所もあるが、国全体では集団免疫獲得に近付いているとされる。マスク着用義務を撤廃しても大きく感染者数が増えない南部テキサス州など、「パンデミック後」の希望を感じさせる雰囲気に変わってきている。都市封鎖(ロックダウン)で経済がマヒ状態に陥った1年前とは大違いだ。楽観が社会を覆い始めている。
だが、筆者はワクチンを打つつもりがなかった。米国では、予約時に「ファイザー製、モデルナ製、J&J製のどれを注射するか」という選択肢が与えられていない。しかも、J&J製と同じく、アデノウイルスベクター技術を採用するアストラゼネカ製ワクチンで血栓症が多数報告されており、一部の国で接種制限がかかっていた。そのため、当面は様子を見ようと考えたのだ。
にもかかわらず接種を早期に受けることになったのは、元妻が勝手に接種の予約を入れてしまったからだ。モデルナ製ワクチン接種の1回目を済ませた彼女は、自分の周りの人たちをすべて接種済みにするという使命感に燃えており、いわゆる「お節介おばさん」的なところがある。もし筆者ひとりだけならキャンセルをしたと思うのだが、元妻は愛息の予約も同時に行い、「連れて行ってあげて」と筆者に頼んだのである。
これには「ノー」とは言えない。予約時に接種される製品はJ&Jワクチンだと判明したが、その時点でJ&J製品の重篤な副反応は報告されておらず、何より息子の接種は大事であるため、断る理由が思いつかなかった。彼女の作戦勝ちだ。まんまと策略にはまった筆者は、息子と接種に出かけることにした。