デジタル化の加速とそれに伴う「業界」の消滅、米中摩擦を背景にした地政学上の変化など、今は数年先を見通すことも難しい時代だ。その中にあって、一流の経営者や専門家は寸暇を惜しんで情報を集め、思索し、仮説検証を繰り返す中で来たるべき未来に対応しようとしている。そんな未来を見通す目を持つ人々との対話を通して、日本の今後を考えていく。1回目はMAプラットフォームの森章会長(森トラスト会長)に話を聞く。(聞き手、植村公一:インデックスコンサルティング社長)
──本日はご多忙のところ、お時間をいただきありがとうございます。足元の経営環境を見れば、米中対立やデジタル化の加速、コロナ禍など不透明感が高まっており、先を見通すのも難しい時代です。その中にあって、一流の経営者が何を考えているのか。今日はいろいろとお聞きするのでどうぞよろしくお願いいたします。
森章会長(以下、森):どこまでお役に立てるか分かりませんが、よろしくお願いいたします。
──まず、新型コロナウイルスの感染拡大の影響をどう見ていますか。
森:緊急事態宣言は解除されましたが、新型コロナはなかなか収まりそうにありませんね。私は「Go To トラベル」や「Go To イート」といった妙なキャンペーンにお金を使うより、医療関係にお金を使った方がいいと思っています。経済を重視すれば感染者数は増加します。キャンペーンをしないことによる経済的な損失と、感染者数の増加に伴う医療体制の逼迫、医療崩壊の経済的影響を比較すれば、マクロでは後者の影響の方が大きいでしょう。少なくとも、ワクチンが行き渡るまでの間は妙なことはやらず、医療崩壊を防ぐ方に重点を置くべきだと思います。
──森会長はリゾート開発も手がけています。インバウンドの落ち込みについてはいかがでしょうか。
森:インバウンドは2019年が最高でしたが、実は国内の旅行消費額を見れば、インバウンド比率は2割に満たない。つまり国内旅行が8割を占めているということです。もちろん、インバウンド需要はほぼ蒸発してしまったので、海外からの飛行機需要やホテルなどインバウンドに関わる事業者は大変な影響を受けています。ただ、コロナ問題が片付けば、インバウンドは自然に回復していくでしょう。逆に、2割に満たないインバウンド需要を意識するあまり、適切な感染対策をせずに海外旅行者を受け入れるということはすべきではありません。
──ワクチンが普及すれば、観光業などは元に戻ると考えていいのでしょうか。
森:時間の問題ですが、元に戻ると思います。コロナ以前に人の移動が容易になっていたことを考えると、むしろコロナ後の方が人の移動は増えるのではないでしょうか。人の移動が増えれば、それに伴って観光業も復活するでしょう。
──これまで、ビジネスパーソンは都心のオフィスで働くことが当たり前でしたが、コロナの感染拡大によってリモートワークも広がりました。これは、都心のオフィスビル市場にとってはネガティブなインパクトだと思います。今後、オフィスビル市場についてはどう見ているでしょうか。