仁を取り出した後のオニグルミの殻は、ハート形土偶の顔に瓜二つだったのである。ハート形の輪郭はもちろん、オニグルミの殻の形態は先に挙げた①~④の土偶の顔面の特徴にそのまま当てはまる。

 殻を左右に分ける隔壁は土偶の顔面の最上部から下垂する高い鼻梁に、そして殻の左右の窪みは眼部に見える。そして目と鼻が造形されているにもかかわらず、なぜ口だけが造形されないのかという謎もこれで合理的に説明できる。そして顔面全体が凹面に造形されている点も、オニグルミの殻の形態と合致している(図3)。

図3 オニグルミの殻の断面とハート形土偶の顔面(所蔵:東京国立博物館)

 それだけではない。オニグルミの殻の表面には渦巻き状の模様が縦に並ぶことがあり、これはハート形土偶の体表にしばしば施文される渦巻きを連想させる。また、オニグルミの殻の辺縁部には列状の小さな孔がみられるが、これもまたハート形土偶の体表部の縁にみられる刺突文に対応していると考えれば、土偶製作者がわざわざこの面倒な意匠を採用した理由も説明できる。

オニグルミの生育分布と土偶の出土分布

 オニグルミはどこにでも生えている木ではない。たしかに平野部の河畔林で見かけることもあるが、分布はまばらであって本数も限られている。一方、東北・甲信越地方の山間部の渓流沿いを歩けば、限られたエリアだけでも相当な本数のオニグルミを見つけることができた。したがって、縄文期にオニグルミを食用資源として重点的に利用していたのは、東日本の山間部やその周辺に生活基盤を持つ社会集団であったと考えられる。ここでピンときた。

 もしハート形土偶がオニグルミをかたどっているならば、すなわちオニグルミの精霊を祭祀するために作られた呪具ならば、ハート形土偶を所有・使用していたのはまさにそうした東日本の山間地域や中山間地域に暮らす人びとが主体となっていたはずだ。

 ということは、ハート形土偶の出土分布を調べ、もしそこにオニグルミの生育分布との近接性がみられれば、両者の「見た目の類似」が偶然である可能性を低減させることができる。