群馬県吾妻郡東吾妻町の郷原(ごうばら)から出土したものが有名だが、それ以外にも「ハート形土偶」と呼ばれる土偶は数十点以上も存在している。私は各地の博物館や考古資料館などを巡り、そのなかでも破損が少なく完形に近い10点あまりのハート形土偶を観察した。そして、そこから以下のような六つの造形的特徴を抽出した。
① 眉弓(びきゅう)が顔面の上側の輪郭になっている
② 眉弓と鼻梁(びりょう)が連続している
③ 口は造形されないか、されてもごく小さい
④ 顔面は緩やかな凹面になっている
⑤ 体表に渦巻きの紋様がみられる
⑥ 体表の辺縁に列状の刺し突文(とつもん)が見られる
顔まわりの造形的特徴の要点をまとめると、①顔面の上側の輪郭が眉弓と一致している、すなわち「額が存在しない」のに加え、②通常であれば顔の真ん中に位置するはずの鼻が、頭部の一番上の部分から取り付けられるという特異なデザインがみられる。著しく「鼻が高く」かつ「鼻筋が通っている」のも印象的である。また、③目や鼻は目立つように造形されているにもかかわらず、口だけが造形されないか、されてもほとんど目立たない。そして、④顔面が平面ではなく凹面になっており、中央部が少し窪むように造形されている。
首から下の特徴としては、⑤体表に渦巻きの紋様のある個体が散見される。そして、⑥体表の縁の部分に列状の小さな孔(あな)が見られる。これは土偶を素焼きする前に先の尖った何かで開けられたもので、非常に丁寧に刺突されている。
森の中での「発見」
最初は見当もつかなかったハート形の植物であるが、答えは森の中にあった。
2017年の初秋、長野県の山中で渓流に沿って一人で歩いているとき、私はある木の実を見つけた。その場でスマホで検索すると、それが縄文カレンダーに載っていた「オニグルミ」であることがわかった(図2)。樹木は橋の欄干の脇の崖下に生えていたため、ちょうど手を伸ばせば届く高さにたくさんの実がぶら下がっていた。熟した果実の一部はすでに黒ずみ始めており、収穫するにはちょうどよさそうな感じである。果実は素手でもぎ取ることができた。
私は収穫したオニグルミを手に河原まで降りていき、大きめの石を見つけるとその上で果実を踏み付け、果肉を取り除いて核果を取り出してみた。さらに踵で核果を踏み付けたが、殻は石のように堅く、ヒビすら入る気配がなかった。
今度は石の上にオニグルミを縦に置いて、拾ったもう一つの石をハンマーのように振り下ろしてみた。すると何度目かの打撃で縫合線に沿って殻が真っ二つに割れた。中の身、つまり「仁」は殻の中に“Uの字”に収まっていた。クルミだからそのまま食べられるだろうと思い、その場で仁を取り出して齧じってみた。