しかし、これだけで「ハート形土偶はオニグルミをかたどったフィギュアである」と結論することはできない。
というのも、オニグルミは平野部でも生育可能であり、量の多寡はさておき、生育環境は山間部に限定されない。また、全国各地の縄文遺跡からオニグルミ遺体は検出されており、その分布がハート形土偶の出土した地域に限定されているわけでもない。つまり、ここでの検証作業によって満たされたのは十分条件ではなく必要条件に過ぎないのである。
したがって、「土偶は当時の縄文人が食べていた植物をかたどったフィギュアである」という私の仮説の妥当性を検証するためには、このハート形土偶のような事例、つまり、推定モチーフと土偶とのあいだに「見た目の類似」がみられるだけでなく、当該の土偶を所有していた社会集団が推定モチーフの植物を実際に資源利用していたことが発掘調査資料によって確認できるような事例を、一つでも多く枚挙していく必要があるといえるだろう。
その作業を行った結果が次の通りである。
ハート形土偶はオニグルミ
中空土偶はシバグリ
椎塚土偶(山形土偶)はハマグリ
みみずく土偶はイタボガキ
星形土偶はオオツタノハ
縄文のビーナスはトチノミ
結髪土偶はイネ
刺突文土偶はヒエ
遮光器土偶はサトイモ
これで現在「○○土偶」と呼ばれている主要な様式の土偶はほぼ網羅することができた。