切り札は「関空乗り入れ」

 二階流外交とは、旅客往来や企業活動を活性化させる経済重視の民間外交である。航空、鉄道、道路による人の移動は大きな経済効果を生む。移動量をいかに増やすか。いかにスムーズに運ぶか――。これが二階の視線である。運輸政務次官(2回)、運輸相の経験に裏打ちされた思考だ。

 一般的に外交とは、国家間の主権をめぐる問題、すなわち安全保障やそれに付随する同盟関係、領土をめぐる対立、関税・貿易など通商全般がテーマとなる分野だ。しかし、二階はそれらメインストリームではなく、人と人との交流、特に歴史・文化・スポーツを通じた関係、さらには往来を増やすことによる観光産業の発展に注目した。経済的な利益を念頭に置いているのは言うまでもない。地元の重要案件である関西国際空港の建設も深く関係している。二階は関空の早期完成、発着数の増加に政治生命をかけてきたからだ。

 2000年代半ばまで、関空だけに乗り入れている珍しい直行便が複数あった。海外旅行好きの間で有名だったのは、ウズベキスタンの首都・タシケントへの直行便だ。二階の政治力で就航した路線だ。同国は中央アジアの要衝であり、同地域と緊密な関係を保つことはロシア、中国への牽制につながる。

 2002年11月、保守党幹事長だった二階は約100人の民間人を連れて関空からタシケントに入った。ウズベキスタンは、ソ連に抑留された日本人のうち約2万5000人が移送され、800人余りが亡くなった国である。同国は極めて親日的で、今も日本人抑留者の墓地を清掃し、守っている人々がいる。抑留された日本人は過酷な労働環境の中でも懸命に働き、タシケントの学校、文化施設などの建設に取り組んだからだ。二階は両国の国民感情を揺さぶる物語に詳しい。世界各国に日本との絆、縁を見いだすことに関しては余念がない。

 カタール・ドーハへの直行便も関空から始まっている。前出の『永田町知謀戦』によると、これも二階がねじ込んだ路線だ。2003年5月、保守新党幹事長だった二階は、自民党幹事長の山崎拓、公明党幹事長の冬柴鉄三らとイラク復興支援の人的貢献方法を調査するため、アラブ首長国連邦(UAE)、クウェート、イラク、カタール、フランスを訪問した。ちなみに、二階は防衛庁の省への昇格に尽力してきた数少ない議員であり、現地ではイージス艦に乗るなど自衛隊の視察にも大幅な時間を割いている。

 この中東訪問は、運輸行政を牛耳る二階の政治力が見事に発揮された事例である。カタール航空が日本への乗り入れに苦労していることを知った二階は、その場で国土交通省の航空局長に電話をかけ、了承を取り付けたのだ。カタール側の喜び方は尋常ではなく、後に就航式典にも招待された。二階は経済産業相時代の2006年、日・カタールの合同経済委員会を発足させ、2007年に首相の安倍(第1次内閣)のドーハ訪問につなげている。