(武藤 正敏:元在韓国特命全権大使)
韓国では昨年、合計特殊出生率(以下「出生率」)が0.84に減り、初めて人口も自然減少した。合計特殊出生率とは、1人の女性が15~49歳までに生む子供の数の平均である。
韓国の出生率は、国連人口基金(UNFPA)の昨年6月に行った集計で、世界198カ国中で最低だった。またOECD加盟37カ国中、出生率が1未満の国は、韓国だけだ。ちなみに同じように少子化が大問題になっている日本の合計特殊出生率は2019年で1.36である。韓国の出生率がいかに際立って低いかが分かる。
文政権でさらに低下した出生率
政府傘下の低出産高齢社会委員会の徐炯洙(ソ・ヒョンス)副委員長は昨年7月、少子化の主な原因として、<出産及び子育ての補償体系が作動していないということ>をあげた。つまり、女性は出産及び育児によって直接的な費用の他に、キャリアの断絶などさらなる費用が発生するのだが、現代の韓国では家族間の扶養機能が低下しているため、老後の扶養などかつてなら育児の苦労と引き換えになった「補償」が消えてしまったというのだ。低出産高齢社会委員会は子供1人を成人させるのに必要な費用は3億ウォン(約2680万円)、時間では1万時間以上かかると試算している。この費用と時間を一方的に子供に提供した後、子の側からしてくれることが何もないとなると、結婚や出産・子育てを諦める成人が増えるのも分からないでもない。
韓国の出生率の低下傾向は、文在寅氏が政権をとって以降さらに強まっている。2018年に0.98と初めて1.0を切ったが、19年には0.92とさらに低下した。19年に推計した2020年の出生率は0.90であったが、今回発表された実際の数字は、これを大幅に下回る0.84という結果となった。新生児数では27万2400人と前年より10%(3万300人)減少している。
昨年末、韓国銀行は「ポストコロナ時代の人口構造変化条件点検」と題する報告書を発表、今後も出生率の低下傾向が続くと予測した。というのも、新型コロナウイルス流行で恋愛・結婚・出産を放棄するいわゆる「3放世代」があふれると見られるからだ。