2019年7月25日、検事総長の任命状を尹錫悦氏(左)に授与し、握手する文在寅大統領(写真:YONHAP NEWS/アフロ)

 文在寅(ムン・ジェイン)政権の各種不正事件の捜査を総指揮していた尹錫悦(ユン・ソクヨル)検事総長が電撃辞任した。

 尹氏の総長辞任の表面的な理由は、「検捜完剝」(検察の捜査権を完全に剥奪すること)に対する抵抗だが、韓国政界ではこれを「政治参加への宣言」として受け止めている模様だ。

朴槿恵弾劾捜査の活躍により抜擢された尹錫悦氏

 尹氏は、朴槿恵(パク・クネ)前大統領の国政壟断事件を捜査した特任検事チームで活躍した功績が認められて文在寅政権で大抜擢された人物。文政権の発足直後はソウル中央地検長として李明博・朴槿恵政権のいわゆる「積弊捜査」を担当し、文在寅政権の「保守圧殺」に大きな役割を果たした。しかし、曺国(チョ・グク)氏事件をきっかけに文政権の不正捜査を開始し、政権と激しく対立していた。

 文在寅大統領は、大統領候補時代から検察権力を大幅に縮小する司法改革を国政課題に定めていた。これは、文在寅政権の原型といえる、盧武鉉(ノ・ムヒョン)政権時代からの左派陣営の念願だ。80年代の軍部政権時代、検察に辛酸を舐めさせられた民主化運動家出身の左派政治家たちは、検察を独裁政権の先兵として見ていた。すなわち、強力な捜査権力を持つ検察は政権が代わるたびに権力に順応し、反政権関係者に対する人権蹂躙的な捜査を行なっているとの認識を左派政治家たちは持っているのだ。

 その検察を改革しようとして失敗した盧武鉉大統領が、退任直後の2009年5月、収賄疑惑で検察の取り調べ中に自殺した。この事件をきっかけに、親盧グループと検察は完全に敵対関係になった。盧武鉉氏の後継者を自任する文在寅氏は、大統領候補時代、「盧武鉉政権時代、検察改革を確実に制度化できなかったのが恨(ハン)だ」とし、強力な検察改革を予告していたのだ。