3月4日、ソウルの大検察庁前で報道陣に辞任の意向を表明した尹錫悦検事総長(写真:YONHAP NEWS/アフロ)

(武藤 正敏:元在韓国特命全権大使)

 韓国の尹錫悦(ユン・ソクヨル)検事総長は3月4日、ソウルの大検察庁(最高検)の玄関前で、「検察での私の役割はここまで。今日総長職を辞任しようと思う」と報道陣に語った。文在寅(ムン・ジェイン)大統領は尹検事総長の辞意を即座に受け入れた。

検察の不正追及から政権を守るための「検察改革」

 尹総長は検察改革を巡って文在寅政権と対立してきた。今回の辞任は、与党が「高位公職者犯罪捜査処」(以下、公捜処)に続いて「重大犯罪捜査庁」(以下、捜査庁)の設置を推進していることに対する抗議である。捜査庁法は検察から、腐敗、選挙、経済などの6大犯罪の捜査権まで奪い取り、「起訴」と「裁判の管理」だけを行う「抜け殻」にしようとするのがこの法案の趣旨である。

 文政権は、青瓦台による蔚山市長選挙への介入、月城原発1号機の経済性評価捏造疑惑、曺国(チョ・グク)元法務部長官一家による数々の不正行為、環境部における政権に不都合な人々のブラックリスト作成、ライム・オプティマス・ファンド詐欺事件への青瓦台職員の関与など政権の基盤を揺るがしかねない数々の事件を起こしている。捜査庁法案は、これらの不正行為への検察の捜査に対し、立法権を使って捜査権限を奪い、政権を守るとともに検察に復讐しようするものである。

 検察から奪われた捜査権は、法務部の捜査庁に移すことになるが、法務部はこれまでの政権と検察の対立で常に政権の片棒を担いできており、事実上政権の不正行為は捜査対象から外れることになる。

選挙に勝てば「国家の主人」か

 こうした国家の基本にかかわる改革を、文在寅政権は立法府における数の力で、民主的な議論をほとんどすることなく実行に移している。文政権は、選挙によって委託された国家の運営を、選挙に勝利した途端、「国家の主人」のごとく振舞い、左派政権を長期存続させるためには何でもやるという暴挙を犯しているのである。

 そのための次の節目が4月7日に行われるソウル・釜山の市長選挙だ。これに勝利すれば22年3月の次期大統領選挙に向け態勢固めができる。したがって両市長選挙に勝つために、文政権はありとあらゆる手を駆使しようとしている。実際、選挙絡みでは過去にも、蔚山市長選挙への青瓦台ぐるみの不正介入、前回の大統領選挙への世論操作疑惑など数々の「実績」があるのが文在寅政権なのである。