(武藤 正敏:元在韓国特命全権大使)
韓国の文在寅大統領は、20年前に金大中(キム・デジュン)大統領(当時)が北朝鮮に対して犯したのと同じ過ちを繰り返そうとしている。
金大中大統領は、1998年の訪日時に小渕恵三総理と「戦略的パートナーシップ宣言」を発表し、それまで韓国では制限されていた日本の大衆文化を解禁することを認めるなど、日韓関係改善を主導した大統領として高い評価を得ている。さらに北朝鮮との関係でも、初めての南北首脳会談を行ってノーベル平和賞を受賞するなど、一見優れた業績を残したかに見える。
だがその一方で金大中氏は、北朝鮮に対する資金援助、経済協力を実施することで、崩壊に瀕した北朝鮮の窮状を救い、結果的に核ミサイルの開発を促進した。そのことにより北朝鮮の脅威を拡大させてしまった。それは地政学を理解するものにとっては歴史的大失敗である。
北朝鮮に核ミサイル開発の原資を提供したノーベル平和賞受賞者
当時、金大中大統領は、側近の朴智元(パク・チウオン)文化観光部長官を密使として北朝鮮に派遣し、2000年6月の南北首脳会談の段取りをつけさせていた。朴氏は金大中大統領と北朝鮮の金正日国防委員長による、史上初の南北首脳会談の立役者だった。だがその6年後、北朝鮮への違法送金にも関わったとして、懲役3年の実刑判決を下されている。
その朴智元氏を、昨年7月に文在寅大統領は、韓国の情報機関・国家情報院のトップに起用した。
野党は、国家情報院長内定者として朴氏が出席した国会聴聞会において、かつて朴氏が宋虎景(ソン・ホギョン)北朝鮮アジア太平洋平和委員会副委員長と「経済協力に関する合意書」を締結したことを追及した。合意には「南側は北側に2000年6月から3年間、25億ドル(約2600億円)規模の投資及び経済協力借款を提供し、首脳会談の際には5億ドル(約530億円)を提供する」と記されている。
文在寅大統領が朴智元氏を国家情報院長に任命したのは、北朝鮮との交渉役を再び担わせようとしたものとの見方がある。