(乃至 政彦:歴史家)
上杉謙信は「生涯不犯」、つまり性交渉を一生しなかったと言われ、それゆえ女性説や、女性に興味はなかったが「男色(なんしょく)」には強い関心があったというものもある。最新の研究では謙信も妻帯を考えた形跡があることが言われるようになったのだ。
上杉謙信の謎をまとめた『謙信越山』が評判を呼んでいる乃至政彦氏が、この伝説を検証、それらが生まれる理由について考察する。(JBpress)
上杉謙信と生涯不犯
上杉謙信は「生涯不犯」だったと言われている。
つまり性交渉を一生しなかったと言うことだ。事実として謙信には実子がなく、女性を性対象と見たような形跡もほとんど見えない。上杉家公式の藩史にも若い頃の謙信が「御身清浄ニシテ、自然ト塵慮ヲ遠ケ」と意識的に色欲を遠ざける生活をしていたことが伝えられている。
こういう人物であるから、無数の俗説が生み出された。例えば、謙信女性説がそうである。また、女性に興味はなかったが、「男色」には強い関心があったというものがある。
女性説は以前述べた(「「上杉謙信は女性」という設定が拡散し続ける理由」https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/62265)ので、今回はこの生涯不犯と男色説を見ることにしよう。
謙信の男色愛好説は様々に議論されているが、結論から言うと、8年前に『戦国武将と男色』(洋泉社歴史新書y、2013)を執筆した時の調査で、謙信が男性への性的指向を好んだ形跡がないことを明らかにした。
では、謙信の男色愛好説はどのように生まれたのか。そして生涯不犯の伝説は真実なのか、当時の史料を中心に問い直してみよう。