北の学生たちとの会談を計画した学生たち

 ソウルオリンピックの翌89年8月、北朝鮮の学生たちとの会談を企画した全大協(全国大学生代表者協議会)の学生デモ隊が、板門店に向けて延世大学を出発した。しかし、10メートルも進まないうちに彼らは白骨団に取り囲まれ、ボコボコに殴られ蹴られて、全員が数珠つなぎにされて逮捕された。

北朝鮮へ向かおうとした学生はたちまち逮捕され、数珠つなぎにされて連行された(写真:橋本昇)
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 それを見ていた中年の女性が、警察車両の前に身体を投げ出し激しく抗議し始めた。

「(金日成に比べると)金正日は大バカ者だけど、あの子たちの気持ちはよくわかる。同じ民族なのだから。あの子たちも兵役でいずれは軍隊に入らなくてはならない。軍隊に入ったら激しく叩きこまれるはず・・・。北に対する現実を。現実は現実なのだから」

 女性は涙を滲ませながら身ぶり手ぶりで必死に訴えていた。

「あの子たちを連れて行かないで」

学生の逮捕に抗議する中年女性(写真:橋本昇)
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 あれから30年以上が過ぎた。あの時の学生たちもそれぞれの道を歩んだことだろう。弁護士、人権活動家、今の政権を支える政府高官。

 当時のフィルムを改めて眺め、そこに残る彼らの青春の日々を追憶していた。

ソウル市役所前の広場を埋めつくす学生達。彼らは仲間の死に抗議し、民主主義を求めた(写真:橋本昇)
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 現在の韓国社会の原点はあの時代にあるのかもしれない。

「あの頃、君は若かった」というフレーズが浮かぶ。

 彼らは「純粋」と呼んでもいいくらい、ひたむきだった。そして彼らの目は輝きを放っていた。その事実だけは、現代の日本人にどうしても伝えたかった。