学生と機動隊の衝突、鎮まればみんなで街頭清掃
あちらこちらで起こる小競り合い――。とはいっても学生運動の光景はやはり内戦とは違う。ここでは互いに度を弁えるのがルールのようだ。
「彼らもやり過ぎると軍隊、つまり戦車が出て来ることを知っているからね」と韓国人カメラマンが耳うちした。
一方の機動隊も、“ある事件”以来、学生の扱いにはピリピリしていた。その少し前、水平発射された催涙弾の直撃を受けて延世大学の学生が死亡したのだ。市民の怒りの抗議デモはそれからいっそう激しくなった。高校生も一般市民も立ち上がった。抗議集会の参加者は100万人にも達したという。
その悪名高い催涙弾が、装甲車から「バリバリ」という音とともに発射された。地面に転がったガス弾が音も立てずに煙を吐き出し、たちまちあたりは濃い霧のような煙に包まれた。あわてて防毒マスクを被る。すると周りの音が遮断され、まるでプールの底に沈んだような不思議な静寂がおとずれた。静寂の中で学生と機動隊員が揉み合っている。学生の手には鉄パイプ。機動隊員がテコンドーの蹴りを入れる。
催涙弾による苦しみは、それを浴びた者にしかわかるまい。目が強烈に痛み、涙がとめどなく流れる。剥き出しの皮膚は火傷のようにヒリヒリと痛む。学生たちの防護手段は目に貼ったラップだけだ。建物の陰で何人もの学生が激しく咳き込み涙を流しながらうずくまっていた。
衝突は2時間近くも続いただろうか。突如、”白骨団”と呼ばれる検挙専門部隊が何処からか現れ、当たれば催涙パウダーを撒き散らかす“リンゴ弾”を投げつけながら学生たちに向かってきた。学生たちは散り散りに逃げ、その日の衝突はあっけなく終了となった。逃げ遅れた数人の学生が白骨団に捕まって連行されていく。
まだ戦いの熱気が残る街中で、さっきまで激突し合った学生と機動隊員が、互いに背中を向け合いつつも、道路に散乱した石をともにかたづけ始めた。不思議な光景だった。学生の一人に「いつもこうなのか?」と質問したら、逆に「なぜ?」ときょとんとした顔で訊かれた。「自分たちが散らかした物は自分たちで片づけるでしょ」。韓国ではあたりまえの道徳らしい。